心電図のみを用いた従来法では副伝導路の位置予測精度は十分でない
神戸大学は4月14日、頻脈の原因となる「副伝導路」と呼ばれる心臓内の余分な通路の場所を、複数の検査データから予測するAIを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科循環器内科の西森誠医師、木内邦彦特命助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
不整脈疾患の中でもWPW症候群という疾患は、生まれつきもっている「副伝導路」と呼ばれる心臓内の余分な通路が原因の疾患であり、脈が速くなる頻脈発作を起こす。この副伝導路はカテーテルを用いて選択的に焼灼すること(カテーテルアブレーション)で根治が期待できる。カテーテルアブレーションによる成功率は副伝導路の部位により異なるため、従来は治療前に体表12誘導心電図から、副伝導路の位置を予測し治療に臨む。ところが、心電図のみを用いた従来法では予測精度は十分ではなく、患者に成功率を含めた十分な説明ができていなかった。そこで今回、研究グループは、AIを使ってこのような問題の解決に臨んだ。
心電図のみを深層学習させると、従来法より高精度だがまだ不十分
研究ではAIの中でも深層学習という手法を使用した。深層学習はプログラムにそれぞれの患者のデータとそれに対応する答えを与えて、繰り返し学習することによりプログラムが自動的に賢くなる仕組みだ。これにより、今まで解決できなかった問題を解決できる可能性があり、近年医療の分野にも応用が進んでいる。
研究グループは、まず心電図だけを使ったAIを作成し、従来法との比較を行った。このAIにはそれぞれの患者の心電図を入力し、同時に答えとして副伝導路の場所を教えることで繰り返し学習を行い、従来法よりも正答率が高いAIを作ることができた。しかしながら、心電図だけを入力しても完全には予測することができなかった。その原因として、心電図はそれぞれの心臓の大きさや向きといったものに影響されてしまい、同じ副伝導路の場所なのに心電図が一致しないということが考えられた。
胸部レントゲン写真の同時学習で情報を補い診断精度が飛躍的に向上
そこで、心臓の大きさなどの情報をもつ胸部レントゲン写真を同時にAIに学習させることによって、この問題を解決した。術前に行われた心電図に加え胸部レントゲン写真も一緒に学習してしまうことで足りなかった情報を補うことができ、心電図だけを用いた場合に比べ診断精度は飛躍的に向上した。
近年のAI技術の発展により、医療分野でも様々な検査データから精度の高い診断ができるようになった。しかし、1つの検査データから診断するだけでは不十分な場合もある。今回の研究では、心電図という1つの検査だけでなく、胸部レントゲン写真という全く別の検査データをAIに学習させることで精度を向上させることができた。AIを用いた正確な診断は、治療前の患者により正確な病状説明が可能となり、患者の不安を和らげる効果が期待される。今回の研究成果について、研究グループは、「他のさまざまな疾患への応用が可能であり、AI診断ソフトウェアへの実用化も期待されている」と、述べている。
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