母親から子への肥満と糖尿病伝染の悪循環を断ち切る効果的な手段は?
東北大学は4月6日、妊娠期の運動が子の肥満を防ぐメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学学際科学フロンティア研究所の楠山譲二助教、理化学研究所の小塚智沙代基礎科学特別研究員、金沢医科大学の八田稔久教授ら、ハーバード医科大学ジョスリン糖尿病センターのLaurie Goodyear教授、コロラド大学、テキサス大学、オーフス大学、オタワ大学の国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Metabolism」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
2型糖尿病患者は2045年までに世界で6億3000万人に達すると予想されており、肥満や糖尿病の病因に対する抜本的な介入が必要だ。近年、母親の肥満や2型糖尿病は、子が健康的な生活をしていても糖尿病のリスクを高めることがわかってきている。欧米やアジア諸国では出産可能年齢の女性の30%以上が肥満に分類されていることから、母親から子への肥満と糖尿病伝染の悪循環は、個人の健康のみならず、社会経済へも大きな負担をもたらす。そのため、糖尿病の次世代伝播を防ぐ効果的な手段を確立できれば、生物医学と医療政策の両方に大きなインパクトをもたらすことができる。
胎盤由来SOD3、母親の運動効果をエピジェネティクス改変で子へ伝達
今回、研究グループは、母親の妊娠中の運動が子の肝臓における糖代謝を向上させることで、将来肥満や糖尿病になりにくくなる分子メカニズムを解明した。妊娠中の運動は、マウスとヒトの胎盤でスーパーオキシドジスムターゼ3(Superoxide dismutase 3:SOD3)の発現を増加させており、この胎盤由来SOD3が母親の運動の有益な効果を子へ伝達していることを実証した。
SOD3は母体内で胎児の肝臓に働きかけ、エピジェネティクス改変の一種であるDNA脱メチル化によって、主要な糖代謝遺伝子の発現を増加し、肝機能を改善させていた。さらに胎盤からのSOD3発現には、運動によるビタミンD受容体シグナルが必要であることを突き止めた。
活動レベルの高いヒト妊婦で血中と胎盤のSOD量上昇
また日常の活動レベルが高いヒト妊婦では、血中と胎盤でSOD3の量が上昇しており、妊娠期運動効能のマーカーとして利用できることが示唆された。
今回の研究は、妊娠期運動が子の将来的な健康に及ぼす根底的な分子機構を世界で初めて実証したもの。また運動応答性臓器としての胎盤の重要な役割を明らかにし、新たな胎盤機能の存在を提唱した。「胎盤を通じて子の将来の健康を増進できれば、これまでにない次世代医療の実現につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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