訪問診療や介護施設等の件数と自宅死亡率との関連を経年的に検証
東北大学は3月31日、国の公表データを用いて市区町村単位の訪問診療や診療所、訪問看護を実施する事業所数と自宅での死亡率の関連を研究した結果を発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科の坪谷透非常勤講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Geriatric Medicine and Research」に掲載されている。
画像はリリースより
多くの人が最期を迎える場所として自宅を望んでいる。しかし、国の調査によると、亡くなった人のうち70%以上が病院で亡くなっていると報告されており、死亡場所についての国民の希望と現実の間に大きな乖離が生じている。過去の先行研究では、訪問診療を実施する一般診療所数や地域単位の収入レベルと自宅死亡率の関連が検討されてきた。しかし医療や介護資源数は年々変化しており、これらの資源数の増減を考慮できていない。医療や介護資源数と自宅死亡率との関連を経年的に検証することは医療や介護資源数について政策的に議論するうえで重要となる。
研究では、国の公表データ2014年と2017年の2時点分を用いて、市区町村単位の医療や介護資源、収入レベルと、同じく市区町村単位の自宅死亡率の関連があるかどうかを検証した。具体的には、国の在宅医療に関連する統計調査等のデータについて、1,741の基礎自治体別に再集計し公表しているデータ集「在宅医療にかかる地域別データ集」を利用した縦断研究(地域相関研究)を実施した。市区町村単位の収入レベルは、同じく国の公表データ「市区町村税課税状況等の調」を用いた。
訪問診療事業所が1件増加で、自宅死亡率2.14%増加と推定
日本全体の自宅死亡率は12.8%(2014年)から13.2%(2017年)とわずかに上昇していた。都道府県別では、東京都が最も増加しており、16.2%(2014年)から20.8%(2017年)と4.6%増加していた。
また、多変量回帰分析により、訪問診療を実施する一般診療所数や訪問看護を実施する事業所数と、市区町村単位での自宅での死亡率に正の関連があることが確認された。高齢者人口1,000人当たりの訪問診療を実施する一般診療所数が1施設増加すると、自宅死亡率が2.14%高くなることが推定された。同様に高齢者人口1,000人当たりの訪問看護を実施する事業所数が1施設増加すると、自宅死亡率が2.19%増加すると推定された。
反対に、病院数や介護療養型医療施設病床数、介護老人保健施設定員数は、自宅での死亡率と負の関連があることが確認された。高齢者人口1,000人当たりの病院数が1施設増加すると、自宅死亡率が3.93%低くなることが推定された。同様に高齢者人口1,000人当たりの介護療養型医療施設病床数が1施設増加すると、自宅死亡率が0.16%低くなることが推定された。さらに高齢者人口1,000人当たりの訪問看護を実施する事業所数が1施設増加すると、自宅死亡率が0.10%低下すると推定された。
在宅生活を支える医療施設数を充実させる政策が重要
今回の研究から、市区町村単位の訪問診療を実施する一般診療所数や訪問看護を実施する事業所数と、市区町村単位での自宅死亡率に正の関連があることがわかった。反対に、地域の病院数、そして長期療養病床数や老人保健施設の定員数は、自宅死亡率と負の関連を示していた。
多くの人々が望む自宅での最期をかなえるためには、訪問診療を実施する一般診療所や訪問看護を実施する施設といった、在宅生活を支える医療施設数を充実させる政策が重要であることが考えられた。「同時に地域の長期療養病床施設を含めた病院数および病床数や老人保健施設の医療・介護人材を、在宅支援サービスに転換していく必要性があることを示唆した」と、研究グループは述べている。
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