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コロナ禍で「居住地域」がメンタルヘルスに与える影響を調査-NCNPほか

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2021年03月29日 AM11:45

個人因子ではなく、人口密度など地域特性との関連を検討

(NCNP)は3月26日、居住地の特性と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下におけるメンタルヘルスの関連を評価するため大規模インターネット調査を実施し、その集計結果を発表した。この研究は、同センタートランスレーショナル・メディカルセンター大久保亮室長、東京大学大学院総合文化研究科の池澤聰特任准教授、東北大学大学院環境科学研究科の中谷友樹教授、埴淵知哉准教授、大阪国際がん研究センターの田淵貴大副部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Affective Disorders」に掲載されている。


画像はリリースより

COVID-19流行によるメンタルヘルスの悪化は全世界的な課題であり、日本でも研究が進められている。これまで、若年・女性・経済的な問題・呼吸器疾患の合併などがメンタルヘルス悪化の危険因子として指摘されている。しかし、これまでの研究で報告されているのはほとんど個人の要因であり、居住地域の特性とCOVID-19流行下のメンタルヘルス悪化について検討した研究はなかった。今回研究グループは、全国のさまざまな地域から合計2万8,000人が参加した大規模なインターネット調査を実施。インターネット調査の限界を克服するため傾向スコアによる重みづけを用い、2016年に厚生労働省で行われた国民生活基礎調査の参加者と性別・年齢・社会経済状況などの分布が同様になるようにデータを調整した。

参加者から聴取した郵便番号に基づいて3つの居住地の特性(人口密度の度合い、地域の貧困の度合い、地域のCOVID-19感染者)を数値化し、メンタルヘルス悪化(心理的苦痛(K6)・調査時点の自殺念慮・新型コロナウイルス流行後に出現した自殺念慮)の割合との関連を調べた。分析にあたり、年齢・性別・収入・婚姻状況・単身生活・要介護者の有無・職業・教育歴・喫煙歴・飲酒歴・併存疾患・COVID-19による就労環境の悪化の影響をできるだけ取り除いた。

「人口密度が高い」「貧困の度合いが高い」地域の居住者ほど、メンタルヘルス悪化

不正回答や不十分な回答を除いた2万4,819人のデータを分析した。研究参加者の9.2%が重度の心理的苦痛を自覚していたことがわかったが、これは2016年の国民生活基礎調査で示された6.7%の1.4倍であり、COVID-19流行によるメンタルヘルスの悪化が確認された。

また、人口密度の度合い、地域の貧困の度合い、地域のCOVID-19患者数のそれぞれについて値の大きさから4グループに分け、グループ間でのメンタルヘルス悪化(重度の心理的苦痛と自殺念慮)の割合の違いを評価した。その結果、「人口密度の高い地域」「貧困の度合いが高い地域」に住んでいる人ほど、メンタルヘルスの悪化の割合が高い結果になった。特に、COVID-19流行後に出現した自殺念慮に関しては、最も人口密度が高い地域()で1.83倍、貧困の度合いが最も高い地域で1.35倍割合が高かった。これは世界で初めての報告だ。

「都市の個人主義的なライフスタイル」が影響した可能性

このような傾向が生じる理由として、人口密度の高い地域では、居住スペースが狭く、かつ住民が個人主義的なライフスタイルを好むことが挙げられる。COVID-19流行下では在宅勤務や休校によって自宅で過ごすことが増え、居住スペースが狭い傾向になる人口密度の高い地域では大きな負担となったことが考えられる。また、都市の個人主義的なライフスタイルは、外出やマスク着用などの感染拡大防止策をめぐり、異なった考えや行動の違いを鮮明化させ、そうした考えや行動の異なる他者とかかわりを持つことが多い都市部の方が、メンタルヘルスに悪影響を及ぼした可能性が考えられた。

また、貧困の度合いが高い地域では、健康的な食事や身体活動を高く保つことを可能にする環境、医療保健施設、地域の対人交流などが乏しいことが指摘されている。そうしたメンタルヘルスに良好に働く要因の乏しさが、COVID-19流行という環境変化に対する脆弱さに結びつき、自殺念慮が増えていることが考えられるという。

居住地域によってアクセスが制限されない方法での支援を

同研究では、都道府県ごとのCOVID-19感染者数とメンタルヘルスの関連は認められなかった。しかし、より細かい区域で感染者数とメンタルヘルスの悪化について検討した場合には、関連が認められた可能性はあるという。

「研究結果は、メンタルヘルスの悪化が新型コロナウイルス感染症患者発生の有無にかかわらず全国的な問題であり、特に人口密度が高い地域、貧困の度合いが高い地域であるほど、深刻であることを示している。人工知能技術や遠隔診療のような広範に届けられる技術を活用し、居住地域によってアクセスが制限されない方法でメンタルヘルスの支援を行うことが、精神疾患罹患・自殺予防には重要」と、研究グループは述べている。

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