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東京五輪開会式の観客の新型コロナ感染リスクをシミュレーション-福島医大ほか

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2021年03月25日 PM01:00

スタジアム内の観客の感染リスクを感染経路別に評価

東京大学医科学研究所は3月22日、環境曝露モデルを用いて東京オリンピック開会式に参加する観客における新型コロナウイルス感染症()の感染リスク、および対策による低減効果を評価し、その結果を発表した。この研究は、福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座の村上道夫准教授、愛媛大学沿岸環境科学研究センター生態系解析部門の三浦郁修氏(日本学術振興会特別研究員)ら国内多施設の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Microbial Risk Analysis」に掲載されている。


画像はリリースより

東京オリンピック・パラリンピックのようなマスギャザリングイベントにおいて、リスク評価に基づいた対策の重要性が増している。開催にあたっては、マスギャザリングイベントのシンボルとして、科学と技術に裏打ちされた開催に関する議論と意思決定が必要だ。とりわけ、COVID-19流行下において求められるのは、単に東京オリンピック・パラリンピック開催による感染リスクがどの程度あるかといった評価ではなく、対策などの効果の評価も含めた選択肢の提示を可能とするような解決志向のリスク評価である。不確実性を伴う中で、現在利用可能なデータと知見から、時宜にかなったリスク評価が必要とされる。

感染リスク評価には、公衆の感染の経時的な予測などを目的としたSIRモデルと環境曝露モデルがある。COVID-19の感染経路として、感染性保有者からの直接曝露、直接吸引、環境表面接触、空気経由の4つがあり、諸対策の効果を評価するためには、それぞれの経路からの感染リスクを評価する必要がある。研究グループは今回、環境曝露モデルを用いて、各経路からの曝露に伴う観客の感染リスクを評価した。

6万人を想定し、7つの感染対策を考慮して算出

開会式の観客におけるCOVID-19の無症状の感染性保有者の割合(P0)を10-6(100万分の1)から10-4(1万分の1)、抗体保有者はいないと設定し、感染性保有者からせき、会話、くしゃみに伴って放出されるウイルス量を計算し、環境中の動態、不活化や表面移動などを時間ごとに算定することで、上述の4つの経路について、開会式に参加する6万人の観客への感染リスクを推定した。

P0=10-6とは、スタジアムに入場した100万人中1人が無症状の感染性保有者であることを意味し、人口1000万人の地域において1.8人/日の新規感染者(無症状と有症状の両者を含む)の発生に、P0=10-4は180人/日に相当する。考慮した対策は、a:入退場時の物理的距離、b:環境表面の除染、c:スタジアム内の空気の換気、d:観客席のパーティショニング、e:マスク、f:手洗い、g:髪の防護の7つとした。このうちa~dは主催者側、e~gは観客側が実施する対策。曝露量に応じて感染リスクを算出し、それぞれのシナリオにおいて1,000回のモンテカルロシミュレーションを行った。

7つの対策を全て行うと99%の低減率を達成すると推定

対策を行わなかった場合、全体の感染リスクは、P0=10-6から10-4の範囲において、それぞれ、平均値として1.5×10-6から1.6×10-4だった。P0に対する平均感染リスクの比は、1.5~1.7で、これは5時間の開会式(待ち時間・入退場含む)において、1人の感染性保有者が観客としてスタジアム内に入場することで、平均値として1.5~1.7人の新規感染者をもたらすことを意味する。

P0=10-4の場合において対策による低減率を見ると、個々の対策の効果は高くないが、主催者と観客側の全7つの対策を行うと99%の低減率を達成すると推定された。主催者と観客側の全7つの対策を行った場合の感染リスクは、P0=10-6から10-4の範囲において、平均値として1.2×10-8から1.1×10-6であり、P0に対する平均感染リスクの比は、0.009~0.012の範囲になる。これらの感染リスクを非感染者の観客人数と乗じ、オリンピック開会式による新規感染者人数(平均値)は、P0=10-6から10-4の範囲において、0.0007人から0.064人と算定された。

スタジアム外での人の移動や集中による感染リスクなども含めた検討が必要

以上より、2つの視座が提供された。1つ目は、P0に対する平均感染リスクの比である。この値は、1人の感染性保有者が観客としてスタジアム内に入場したときの新規に生じる感染者数の期待値を意味する。この指標に類似したものとして、(R0;1人の感染者が、抗体を保有しない集団において感染性保有期間中に感染させる人数を示す値)がある。一般に、R0が1未満の時、感染の拡大を防ぐことができるとされている。ただし、この研究は、5時間という限られた時間の開会式における事象であることに注意が必要だ。研究において全ての対策を行うことでP0に対する平均感染リスクの比が約0.01を達成した点は感染拡大予防の観点から顕著な意味があると考えられるという。

2つ目は、新規感染者数の期待値だ。全期間中の東京オリンピック・パラリンピックの観客数は予定通りであれば1000万人程度とされている。仮に、東京オリンピック・パラリンピックの観戦による新規感染者数の期待値を10人未満にしたいのであれば、開会式と他のイベントでの感染確率が同じと仮定すると、P0が5×10-5未満である必要が、100人未満にしたいのであればP0が5×10-4未満である必要あると考えられる。これは、おおむね、人口1000万人あたり91人/日、910人/日の新規感染者数に相当する。なお、無症状者が存在することや検査に制限があることから、実際の新規感染者数は、検査によって確認された陽性者数よりも多いと考えられることに注意が必要だ。

今回の研究で示唆されたように、P0を低く抑えること、スタジアム内での主催者と観客の協力的対策の実施は必要不可欠だ。加えてスタジアム外での人の移動や集中による感染リスクなども含めて、東京オリンピック・パラリンピック総体としての観客のリスク評価と管理、選手やスタッフのリスク評価と管理も求められる。「さまざまな困難が想定される中で、今、科学に求められる役割は解決志向性をもった客観的知見の集積と視座の提示であると考えられる」と、研究グループは述べている。

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