希少難病のXPD、in silico DR創薬法を考案し開発コスト低減
神戸大学は3月17日、既存薬を用いた安全で安価な創薬法であるドラッグ・リパーポージング(DR)法と計算創薬を融合させた新しい創薬法を開発し、まだ治療法がない色素性乾皮症D群のうち、特に重篤なR683W変異型に対し有効な薬剤を発見、さらに細胞実験でこの薬剤が著効することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院医療情報部の高岡裕准教授、大田美香学術研究員、菅野亜紀医学研究員(兼、名古屋大学医学部助教)ら、大学院医学研究科の錦織千佳子教授ら、熊本大学発生医学研究所の立石智講師、神戸常盤大学医療検査学科の鈴木高史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biomedicines」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
色素性乾皮症(XP)は、重度の日光過敏症と神経症状を呈する希少な常染色体劣性遺伝性疾患で、日本では約2万2,000人に1人、米国では約100万人に1人、西欧では約43.5万人に1人が発症する。このうち色素性乾皮症D群(XPD)はERCC2遺伝子変異が原因で発症する常染色体劣性疾患で、皮膚に高度の炎症を引き起こす希少遺伝性疾患だ。XPDは欧米ではXPの中で2番目に多く、日本では3番目に多いタイプで、日本では患者の55%、欧米では25%が思春期前に神経症状を発症する。
疾患の原因となるXPDタンパク質は、転写因子IIヒト複合体のATP依存性DNAヘリカーゼであり、損傷したDNA二重らせんの鎖をほどくことでDNA修復を促進する機能を有する。このXPDのR683W変異は重度の光過敏症と神経症状、具体的には若年で露光部に皮膚がんが多発するとともに、進行性の知的障害、聴覚障害、および歩行能力の喪失などの中枢神経系の重篤な異常を引き起こす。その原因として、ヌクレオチド除去修復(NER)能力の低下が知られている。これまでの高岡准教授による分子シミュレーション解析により、各XPD型におけるNER機能の障害は、XPDタンパク質のATP結合能の低下により引き起こされていることがわかっている。
これらのことから、研究グループは、ATP結合能を回復させる薬が見つかれば臨床症状を改善可能であると考えた。しかし、患者数の少ない希少難病では、開発コストの低減なしには創薬は実現しない。そこで、すでに前臨床試験や臨床試験で生体動態や安全性が確認されている薬剤2,006種類を対象とするDR法を、計算創薬に応用した「計算ドラッグ・リパーポージング(in silico DR)」として応用することで創薬コストを下げることができると考え、計算DR創薬法を考案し、研究を進めた。
既存薬から酵素阻害剤4E1RCatを発見、NER能の回復を確認
研究グループは、正常型と変異型のXPDタンパク質の構造を解析し、2,006種類の既存薬を対象にドッキング解析を実施。ドッキング結果から、ATP結合部位とDNA結合部位以外に結合し、かつ常に同じ部位に結合する化合物を計152種類選択した。その中から特に安定な結合結果を得た5種類の薬剤を治療薬候補として選択し、スーパーコンピュータ「京」を用いて誘導適合による構造変化を解析。そして候補薬剤によるATP結合部位の変化と、ATPドッキング能の変化を、誘導適合後のXPDタンパク質の立体構造を用いて解析した。
正常のXPDタンパク質の静電ポテンシャル解析結果から、XPD R683W変異型タンパク質では、ATP結合部位の静電ポテンシャルは正常型の(−)から(+)に変化していた。しかし、XPD R683W変異型タンパク質に酵素阻害剤4E1RCatを結合させると、誘導適合によりATP結合部位の静電ポテンシャルが正常型と同様に(−)に変化しており、ATPドッキング解析の結果も正常と同様だった。
そこで、XPD R683W変異の皮膚線維芽細胞を用いた遺伝子修復機能(ヌクレオチド除去修復能:NER)を解析した。結果、4E1RCatによるNER能の回復が示された。
今回開発された新規創薬法により発見された治療薬候補は、現在まで根治療法のない色素性乾皮症D群(R683W)に対する世界で初めての特異的治療法開発に、大きく貢献することが期待できる。研究グループは現在、今回の論文で報告した計算創薬方法を用い、有効な治療薬候補をさらに発見すべく、計算機による候補化合物の探索を継続して進めているとしている。
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