ラブドシアノンIは延命草の苦み成分の1つ
京都府立医科大学は3月9日、延命草の苦味成分「ラブドシアノンI」が大腸がん細胞の増殖を抑制する分子メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科分子標的予防医学の渡邉元樹講師と梅花女子大学の山田恭正教授、産業技術総合研究所の亀田倫史主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancers」に掲載されている。
画像はリリースより
日本に自生するシソ科の多年草、延命草(学名 Isodon japonicus Hara)は古くから生薬として受け継がれ、その昔、弘法大師が、病に倒れ苦しむ旅人に延命草の搾り汁を与えたところ、たちまち起き上がったという伝承から、「ヒキオコシ(引き起こし)」とも呼ばれ、「起死回生の妙薬」と伝えられてきた。しかしその薬効成分と作用メカニズムについては十分解明されておらず、これまで民間治療として一部の地域で用いられているのみだった。
梅花女子大学の山田教授は、延命草の苦味成分としてこれまで知られていた「エンメイン」(enmein)や「オリドニン」(oridonin)とは別の有機化合物を延命草から抽出分離して、その分子構造を決定し、ラブドシアノンI(rabdosianone I)と命名している。そして今回、このラブドシアノンIはがん細胞にどのような効果を及ぼすかを研究した。
ラブドシアノンIはミトコンドリア内のタンパク質に結合し、がん細胞増殖を抑制
はじめに、複数のヒト大腸がん細胞にラブドシアノンIを添加した。結果、がん細胞のほとんどが消失することを見出した。また、そのメカニズムとして、がん遺伝子として広く知られる、チミジル酸シンターゼ(thymidylate synthase)の発現抑制を介することが生化学的実験によってわかった。
次に、ナノ磁性ビーズにラブドシアノンIを固定化するケミカルバイオロジーの手法を用いて、ラブドシアノンIが、がん細胞内においてミトコンドリア内に存在する2種のタンパク質adenine nucleotide translocase 2(ANT2)とprohibitin 2(PHB2)に直接結合することを発見した。このことを裏付けるために、産業技術総合研究所の亀田倫史主任研究員らが、スーパーコンピューターを用いた分子動力学シミュレーションを行ったところ、ラブドシアノンIがANT2の疎水性ポケットに強力に結合している様子が確認された。
さらに、遺伝子の発現を抑える実験(ノックダウンアッセイ)により、ANT2とPHB2がともにチミジル酸シンターゼの発現を制御していることを証明。つまり、ラブドシアノンIはANT2とPHB2に結合し、その機能を阻害することで、チミジル酸シンターゼの発現を抑制し、がん細胞の増殖を阻止するという新規メカニズムを明らかにした。
チミジル酸シンターゼは5-FUの標的分子、新たな抗がん剤などの開発に期待
世の中にはさまざまな天然物由来の民間薬や健康食品があふれているが、科学的機序が裏付けられているものはそう多くない。今回、がん予防研究、分子細胞生物学、天然物有機化学、生命情報科学など多彩なバックボーンを有する研究者で構成された研究グループによって、延命草の苦味成分ラブドシアノンIの、がん細胞内における標的タンパク質の同定に成功し、がん遺伝子チミジル酸シンターゼの発現を抑制する分子メカニズムを明らかにした。
「チミジル酸シンターゼは、すでに世界中で汎用されている抗がん剤5-FUの標的分子としても知られており、ラブドシアノンIをリード化合物として合成展開することにより、より安全で新たながん予防薬や抗がん剤の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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