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難治性卵巣がんの摘出組織からポリスルフィド検出、高値は予後悪化に関与-慶大ほか

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2021年03月12日 PM12:15

化学療法抵抗性のバイオマーカー、メカニズム、治療法発見が必要

慶應義塾大学は3月9日、手術により摘出した卵巣がん組織における活性硫黄種の1つであるポリスルフィド(PS)を表面増強ラマン散乱イメージングによって世界で初めて検出することに成功、これにより、ポリスルフィドが高い値の症例では、手術後に行われる白金製剤などの化学療法の効果が低下し、長期予後が悪化することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学病院臨床研究推進センターの菱木貴子専任講師、同大医学部医化学教室の山本雄広専任講師、加部泰明准教授、末松誠教授、および、日本医科大学大学院医学研究科生体機能制御学分野の本田一文大学院教授(国立がん研究センター研究所部門長兼任)、国立がん研究センター研究所の平岡伸介部門長、防衛医科大学校病態病理学(津田均教授)、産婦人科学(高野政志教授)の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Redox Biology」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより

卵巣がん症例では、診断後に腫瘍減量手術を行ったのち、シスプラチンなどの白金製剤が術後化学療法として施行されている。しかし、術後化学療法の効果には大きな個人差がある。このため、化学療法に対する抵抗性の指標となるバイオマーカーを探索するとともに、薬剤抵抗性のメカニズムを解明し、かつ抵抗性を解除する新たな治療法を見出すことが求められていた。

CSE高値症例は術後化学療法の成績が悪いが、発現量のばらつきが課題だった

本田教授らの研究チームは、防衛医科大学校病態病理学、産婦人科学と共同で、2 病院における卵巣がん症例182例から得た摘出組織を、免疫組織マイクロアレイ法により1,012種類の単クローン抗体を用いて解析した。その結果、システインやグルタチオン、硫化水素(H2S)などの生成酵素の一つであるシスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)が高く発現している症例では、白金製剤を主体とした術後化学療法の成績が悪く、生命予後が短くなることがわかった。白金製剤に対する薬剤抵抗性は、病理診断で明細胞がんと診断された症例が大多数だったが、それらの症例の中でもCSEの発現量が高い症例と低い症例とのばらつきが大きいため、個々の症例における生命予後の正確な予測は困難だった。

CSEの代謝物質PS、低値は全例化学療法に反応、高値は術後2,500日までに死亡

末松教授らの研究チームは、2018年に報告した非標識・無染色の組織凍結切片を用いて多数の代謝物を画像化できる表面増強ラマンイメージング技術を利用し、・バイオバンクに蓄積されている卵巣がんの組織検体を用いてImaging metabolomics 解析を実施した。その結果、明細胞がん(Clear Cell Carcinoma:CCC)では漿液性腺がん(Serous Adenocarcinoma:SAC)と比べて、がん細胞集塊部(Cancer cell nest)や周囲のがん間質部(Cancer stroma)で、480 cm-1に検出されるポリスルフィド(PS)が高いことが明らかになった。PSは酵素CSEが生成する主要な代謝物質の1つであり、ヒトの固形腫瘍で高値を示す症例は化学療法抵抗性を示すことが初めて明らかになった。CCCのPS値は症例間のばらつきが大きく、特にPS値の中央値で2群に分けると、低値群では全例が化学療法に反応するのに対して、高値群では術後2,500日で亡くなっていた。

去痰薬AmbroxolでPS分解、高値症例は白金製剤併用で耐性解除の可能性

さらに末松教授のチームは、既存薬の中で去痰薬として汎用されているAmbroxolにポリスルフィドの分解作用があることをSERSの解析で明らかにした。ヒト由来の卵巣がん細胞株のうち、PSが高い株であるOVISE細胞と、PSが低い株であるOVCAR細胞を比較し、Ambroxolを添加すると OVISE 細胞の生存が低下することもわかった。そこで、これらの細胞株の白金製剤()に対する感受性を比較したところ、OVISE細胞ではシスプラチン単独では細胞死が起こりにくいのに対し、Ambroxol共存下で培養すると細胞死が誘導されることが明らかになった。興味深いことに、OVISE細胞内の複数のタンパク質では、通常はシステイン側鎖のチオール基(-SH)がポリスルフィド化されていることも生化学的に証明された。そしてAmbroxolはこれらのタンパク質のポリスルフィド化を顕著に抑制することが示された。さらに、ヌードマウスの皮下にOVISE細胞を移植して腫瘍形成を起こすモデルでもAmbroxolはシスプラチンによる腫瘍退縮効果を増強することが明らかになった。

今回の研究により、腫瘍減量手術を受けた際に採取できる凍結卵巣組織ブロックを薄切してできる試料を表面増強ラマン分光顕微鏡(SERS)で分析することによって、サンプルを標識、染色などの人為的操作を加えずにポリスルフィドが高値の患者を簡便に選別できるようになった。また、ポリスルフィド高値の症例では白金製剤とAmbroxolを併用することによって腫瘍の退縮効果が増強する、すなわち、治療薬耐性の解除が可能であることが示唆された。「このような薬剤併用による抗がん剤の主作用の増強は、将来進行性の卵巣がんの術後化学療法の予後を改善する可能性が示唆され、今後の展開が期待される」と、研究グループは述べている。

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