LOTUSがシナプス形成や記憶機能に与える影響は?
横浜市立大学は3月4日、神経回路形成因子「LOTUS」が、記憶に関連する脳部位である海馬において神経細胞のつなぎ目であるシナプスの形成を促進し、記憶機能を制御することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院生命医科学研究科の竹居光太郎教授と東京大学大学院農学生命科学研究科の喜田聡教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
高齢者の5人に1人は認知症を発症する可能性があると言われており、高齢化に伴う記憶障害は大きな社会問題となっている。加齢による記憶障害を引き起こす因子の一つとして「Nogo」という分子が知られている。Nogoは、その受容体であるNogo受容体-1(NgR1)に結合すると、記憶形成に重要な役割を担うシナプスを減少させ、記憶形成能力を低下させる因子として知られている。そして、NogoやNgR1は加齢に伴い発現量が増加し、記憶機能も低下することが報告されている。
研究グループの竹居光太郎教授らは、嗅覚情報を伝える神経回路の形成に重要な分子として神経回路形成因子LOTUSを2011年に発見した。LOTUSは強力なNgR1拮抗物質としてNogoの作用を抑制することで、NogoとNgR1の結合を介して起こる軸索伸長阻害を遮断し、神経回路形成や神経再生を促進することが明らかとなっていた。また、LOTUSは健常な成人の脳には豊富にあるが、加齢に伴い徐々に減少する。このため、その減少が一因となって記憶機能の低下が起きると想定されるが、シナプス形成や記憶機能にLOTUSがどう影響するかは明らかとなっていなかった。そこで研究グループは今回、LOTUS遺伝子欠損マウスを用いて、LOTUSがシナプス形成や記憶機能に与える影響について検討した。
LOTUS-KOマウスは記憶機能が低下、LOTUSは記憶形成に重要
まず、野生型マウスとLOTUS遺伝子欠損(LOTUS-KO)マウスの海馬培養神経細胞について、そのシナプス密度を解析した結果、野生型と比較してLOTUS-KOマウス由来の細胞ではシナプス密度が有意に減少していた。このことはLOTUSがシナプス形成に重要な物質であることを示すという。
次に、マウスの記憶能力を測定する行動解析を行った。記憶機能を解析したいマウス(テストマウス)を初対面のマウス(対面マウス)に会わせると、テストマウスは対面マウスに対して臭いを嗅ぐなどして「調査」をする。その調査時間を測定した24時間後に同じ対面マウスと会わせると、テストマウスがその対面マウスを覚えていると調査時間が短くなり、覚えていないと初回と同じような時間をかけて調査を行うことから、記憶しているかどうかがわかる。その結果、野生型マウスでは2日目の調査時間が短くなって対面マウスを覚えているのに対し、LOTUS-KOマウスは1日目と同じ時間をかけていた。このことはLOTUS-KOマウスは記憶機能が低下していることを示す。以上のことから、LOTUSが欠損すると記憶形成に重要なシナプスが減少し、記憶機能も低下することが示され、LOTUSは記憶形成に重要な役割を担うことが明らかとなった。
LOTUSのさらなる解明で、健忘症や認知症の予防と改善に期待
今回の研究によってLOTUSは記憶形成に対して重要な役割を担うことが判明し、加齢による記憶障害の改善する有力な候補分子であると推察された。しかし、逆に「LOTUSが過剰にあると記憶機能が亢進するのか」という課題が残されているため、研究グループはこれに取り組むとしている。
さらに、LOTUSが加齢により減少する理由を明らかにし、LOTUSを減少させない、もしくは増加させる方策を考究する必要がある。「これらによって、加齢による健忘症や広義の認知症を防ぐ方策が見出されると期待される」と、研究グループは述べている。
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