しばしば診断に難渋する「稀少部位子宮内膜症」
東京大学医学部附属病院は2月18日、同院で診療にあたった大網子宮内膜症という極めてまれな症例について経過・治療内容を報告したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻 博士課程3年の荒川知子大学院生(東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 病院診療医)と、同院 大腸・肛門外科の石原聡一郎教授らのグループによるもの。症例報告は、「The New England Journal of Medicine」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
子宮内膜症は、子宮内膜類似の組織が子宮の外(卵巣・腹膜・ダグラス窩・子宮靭帯など)に発生する疾患。生殖年齢の女性の約10%に発生すると推定され、月経痛や不妊症、周産期合併症、卵巣がんなどに関連している。一方、卵巣・腹膜・ダグラス窩・子宮靭帯以外の臓器(肺、腸管、膀胱、臍など)にも子宮内膜症病変が生じることがあり、これを稀少部位子宮内膜症と呼称する。日本では子宮内膜症患者全体の0.5%程度を占めると報告されているが、疾患自体がまれなうえに病変の生じる臓器によって症状が多岐にわたり、患者も産婦人科以外の診療科を受診することが多いなどの理由から、診断に難渋することがしばしばある。
病歴やMRIなどから大網子宮内膜症と診断、術後経過良好
今回、荒川医師らのグループは、大網に発生した稀少部位子宮内膜症の症例を報告した。患者は37歳で、5年前に腹腔鏡下子宮内膜症性卵巣嚢胞摘出術を受けた既往があった。月経時の強い下腹部痛を主訴に同院女性診療科・産科を受診し、コンピュータ断層撮影(CT)と磁気共鳴画像検査(MRI)で下腹部に直径約4 cmの嚢胞性病変が見つかった。病歴と画像所見から子宮内膜症が疑われた。
発生部位としては腸間膜などの生殖器以外の臓器が疑われたため、大腸・肛門外科で精査のうえ、腹腔鏡補助下腫瘍切除術が行われた。腫瘍は大網の下部に存在しており、大網切除術が行われた。子宮・両側卵巣は肉眼的に正常だった。病理診断では、大網に発生した子宮内膜症性嚢胞であり、悪性所見は認められなかった。術後の経過は良好で、術後22か月間再発なく経過している。
初の症例、稀少部位子宮内膜症の認知拡大やより適切な診療に期待
稀少部位子宮内膜症は、肺、腸管、膀胱、臍以外にも、肝臓・腎臓・そけい・筋肉・神経・胸膜・リンパ節・男性の膀胱など、身体のあらゆる臓器に発生することがわかっている。今回、荒川医師らのグループは、これまで報告のなかった大網に囊胞状に発生した子宮内膜症の診療を経験した。今回の報告を通して、稀少部位子宮内膜症というまれな疾患が、多くの医療従事者ならびに国民に認知されることで、今後のより適切な診断や治療の一助となることが期待されるという。
なお、今回の症例では、卵巣子宮内膜症の手術既往があり、今回の大網病変の発生との関連が示唆されている。しかし今回のように同症の手術後に大網に嚢胞性病変が発生した症例はこれまでに報告はない。荒川医師らのグループは、「なぜ今回の症例でそのようなことが起きたのかについては、分子生物学的な手法を用いて解明していきたいと考えている」と、述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース