糖尿病専門医のインスリン判断をAIに学習させ、非専門医の判断能力と比較検証
新潟大学は2月17日、専門医が過去に行った治療内容の大規模データを機械学習させ、命に関わる特定の診療場面において、一般医(非専門医)を超えた専門医レベルの方針決定が可能な人工知能(AI)システムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループが、NTTコムウェア株式会社との共同研究として行ったもの。研究成果は、「JMIR Medical Informatics」に掲載されている。
画像はリリースより
2型糖尿病では、最初の薬物療法として内服薬が用いられることが多いが、状況(ある程度以上重症の場合など)によっては、初診時からインスリン注射治療が必要となり、その判断を誤ると血糖値が極めて高くなり、昏睡など命に関わる重大な結果を招くことがある。糖尿病専門医は知識と経験に基づき、最初からインスリン注射が必要な患者を的確に判断しているが、非専門医にとっては時に難しい判断となる。
今回、研究グループは、糖尿病データマネジメント研究会(Japan Diabetes Clinical Data Management Study Group:JDDM)が持つ日本全国の糖尿病専門医の診療記録ビッグデータを活用し、糖尿病専門医が初期治療にインスリン療法を選択した患者の病状をAIに機械学習させ、初期治療にインスリン療法が必要かの判断能力について、非専門医の判断能力との比較も含めて検証した。
一般医の正解率43%に対し、機械学習の正解率は86%
今回、研究の対象としたのは、JDDMに登録され、糖尿病罹患期間、肥満度、血圧、血液検査(HbA1c、腎機能)などのデータを有し、2009~2015年に糖尿病専門医が実際に薬剤選択を行った20歳以上の4,860人(インスリン293人、インスリン以外4,567人)。このうち一部症例について、9人の糖尿病専門医と22人の非専門医にデータを示し、インスリン治療を選択すべきかについて判断させた。AIの予測能は5分割交差検証法(テストデータを除くデータを用い、インスリンとインスリン以外の比率を維持し、ランダムに抽出し作成した5個のグループに対して訓練・検証のデータを入れ替えながらモデルの学習と検証を行う手法)で評価した。さらに、専門医9人中8人がインスリン療法を要すると判断した症例の治療選択について、一般医とAIの判断の正解率を比較した。
その結果、一般医の正解率43%に対し、機械学習の正解率は86%と約2倍高い結果を示した。今回の検討は、AIが非専門医より正確に、インスリン選択が必要である症例を判別できることを示し、命に関わる特定の診療場面において、非専門医が単独で方針決定せざるを得ない際の診療サポートとして、AIが役立つ可能性を初めて示したものとなった。
今後、診療のさまざまな現場において、機械学習を基にしたAIによる意思決定支援システム開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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