活性酸素種の消去に関わるタンパク質CYGB
大阪市立大学は2月16日、サイトグロビンを静脈注射することで、マウス肝線維化の進行が抑えられることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科肝胆膵病態内科学の河田則文教授、Le Thi Thanh Thuy特任講師、Ninh Quoc Dat大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology誌」に掲載されている。
画像はリリースより
肝線維化は、進行すると日本で約40万人が罹患している肝硬変に至る病態で、肝不全や門脈圧亢進症、肝がんの発生に大きく関わる。従って、進行慢性肝疾患の予後を改善するためには、肝線維化の進行を抑制する、あるいは、肝硬変を軽減できる治療法が必要だが、ヒトの慢性肝疾患に対する抗(脱)線維化治療法は未だ開発されておらず、アンメット・メディカル・ニーズとなっている。
研究グループは、肝線維化に関わる主要な細胞である肝星細胞(Hepatic stellate cell:HSCs)に発現し、活性酸素種の消去に関わるタンパク質であるサイトグロビン(CYGB)が持つ抗線維化作用に注目し研究を行っている。
His-CYGBは肝細胞毒性を示さず、安全性確認
今回、肝線維化が進行したモデルマウスを用いた検討で、CYGBの遺伝子操作による発現増強、またはヒト型組み換えサイトグロビン(His-CYGB)注射投与のいずれの方法も、肝線維化を抑制することが可能であるとの結果を得た。また、ヒト肝細胞キメラマウスにおいて、注射投与したHis-CYGBは、肝細胞毒性を示さず、その安全性が確認されたという。
肝線維化は、肝細胞障害をきっかけとして始まり、炎症性細胞の浸潤、HSCsの活性化、有害な活性酸素種(ROS)の産生等を含む、多種多様なステップを経て進行する。
まず、培養HSCsの培養液中にHis-CYGBを投与して観察したところ、投与したHis-CYGBがクラスリンを介して細胞内へと取り込まれ細胞内小器官へ移行すること、HSC細胞内の活性酸素種O2・やOH-を消去すること、さらには、インターフェロンβ(interferon-β、IFN-β)の産生誘導を行うことがわかり、これらの作用を介してHis-CYGBがHSCsのコラーゲン産生を阻害することを確認。すなわち、投与したHis-CYGBはHSCsの活性化に対して負の制御作用を有することが明らかとなった。
His-CYGB投与群、肝線維化関連事象を劇的に抑制
また、研究グループは、肝線維化モデルマウスを数種類用意し、サイトグロビンを遺伝子操作で過剰発現させたマウス(トランスジェニックマウス)と野生型マウスで比較実験を実施。その結果、マウス胆管結紮モデルと高脂肪食モデルの両方で、野生型マウスに比較してCYGBトランスジェニックマウスでは肝線維化が有意に軽減した。
肝細胞障害を惹起する化学物質の長期投与で誘導した肝線維化モデルマウスにHis-CYGBを静脈注射で投与したところ、投与したHis-CYGBは肝の類洞周囲に存在するHSCsに集積すること、主として腎臓から尿へと排泄されるが腎毒性を発揮しないことがわかった。
さらにHis-CYGB投与群では、非投与群と比較して、肝細胞障害・炎症反応、コラーゲン沈着、HSCs活性化のマーカーであるα平滑筋アクチン発現や活性酸素によるDNA損傷など、肝線維化に関連する事象を劇的に抑制することが観察されたという。
今回の研究成果を足がかりに、His-CYGBを用いた新しい脱線維化治療法確立に向けて、大動物を用いた試験ののち、ヒトへの臨床試験へと進めたい、と研究グループは述べている。
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・大阪市立大学 プレスリリース