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10万倍に高感度化したMRIで細胞死の可視化に成功-北大ほか

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2021年02月19日 PM12:30

動的核偏極型の励起装置、導入費用の問題などから一般病院への普及が課題

北海道大学は2月17日、量子状態をそろえた水素ガスを用いて、安定同位体である13C核を励起し、核磁気共鳴画像MRIで数万倍も高感度に検出できる超偏極分子を瞬時かつ常温・低磁場で作り出せる量子技術の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院情報科学研究院の松元慎吾准教授、千葉大学大学院理学研究院の橋本卓也特任准教授、自治医科大学分子病態治療研究センターの武田憲彦教授、日本レドックス株式会社、株式会社Transition State Technologyらの研究グループによるもの。研究成果は、「ChemPhysChem誌」の特集号に掲載されている。


画像はリリースより

国民医療費を抑えつつ健康長寿命社会を実現する鍵は、疾患の早期診断・早期治療につながる検査技術にある。現時点では、定期的に何度も実施できる検査として、血液や尿など比較的容易に得られる液体生検の成分分析か、核磁気共鳴画像MRIや超音波エコーなどによる画像診断がある。

形態画像解析の技術進歩が頭打ちになっている現在、陽電子放出断層撮影()や単一光子放射断層撮影()などの分子イメージング診断の進展が、前述の社会ニーズ両立の鍵となる。その反面、PETやSPECTなどの核医学検査は患者と医療従事者両方への被曝リスクに加えて管理区域が必要であるなど、被曝を伴う放射性同位体標識による核医学検査の管理・運用には多大なコストと労力が必要で、医療現場の大きな負担となっている。

超偏極13C MRIは、安定同位体である13Cで標識した分子の核偏極率(=MRI感度に比例)を数万倍に励起することで、その代謝反応をリアルタイムに可視化する新しい量子イメージング技術。安定同位体標識であるため、核医学検査で問題となる放射線被曝がなく、光学系イメージングでは困難な脳や膵臓などの生体深部においても、複数の分子(診断薬とその代謝物など)を区別して同時に可視化でき、なおかつ異物構造を含まず安全なグルコース代謝物などの生体低分子をトレーサーとして診断することができる“夢の分子イメージング”として期待されている。

また、動的核偏極(DNP)として知られる物理現象を利用した励起装置による超偏極13C MRIは、すでにがん診断を目的に世界10か所以上で千人規模の臨床試験が始まっている。しかし、DNP型の励起装置の導入費用は数億円に上るだけでなく、励起に数時間要することから、一般病院への普及が課題となっている。

MRIで数万倍も高感度に検出できる超偏極分子を瞬時かつ常温・低磁場で作り出せる量子技術を開発

今回、研究グループは、量子状態を一重項にそろえた水素分子(パラ水素)を用いた化学反応と量子操作により、天然にも存在する安定同位体である13C核を励起し、核磁気共鳴画像MRIで数万倍も高感度に検出できる「超偏極」分子を瞬時かつ常温・低磁場で作り出せる量子技術の開発に成功。この技術と構造異性体に選択的なルテニウム水素化触媒を用いて、1.5Tの熱平衡状態と比べて10万倍強力な13C MRI信号を出すフマル酸分子(超偏極13Cフマル酸)を作製した。

フマル酸はグルコースの主要な代謝物の一つであり、生体内に豊富に存在する。一方、外来的に投与したフマル酸は、細胞の中に入りにくい上、健常な組織・臓器ではほぼ全く代謝されない。細胞膜の破壊を伴う細胞死(壊死、ネクローシス)を起こし、本来は細胞内のみに存在するはずのフマル酸の代謝酵素であるフマラーゼが細胞の外にばら撒かれている組織、例えば炎症や心筋梗塞部位などにおいてのみ、外来的に投与したフマル酸のリンゴ酸への代謝が生じる。

肝障害モデルマウスで肝臓内の非侵襲的な細胞死イメージングに成功

今回、このフマル酸からリンゴ酸への代謝を応用し、水素ガス技術により作製した超偏極13Cフマル酸をアセトアミノフェンで誘発した肝障害モデルマウスに投与し13C MRI撮像を行うことで、肝臓内の非侵襲的な細胞死イメージングに成功した。

超偏極13Cフマル酸による細胞死イメージングは、先行技術であるDNP型の13C励起装置でも実証されている。同研究では競合技術に比べて10分の1の臨床初期費用と約1分という短い励起時間で超偏極13C分子を作り出せる水素ガス技術(パラ水素誘起偏極)で同様の画像診断が可能であることを世界で初めて実証した画期的な成果だという。

放射線被曝リスクのある核医学検査に代わる、安く安全で汎用性の高い画像診断法として期待

「核偏極タグ」とも呼ばれる超偏極状態の分子は、量子的に励起されており、その化学的な性質は通常の励起されていない分子と変わらない。したがって、生体にとっての異物構造を含まないグルコース代謝物などの生体低分子そのものに核偏極タグを付けることで診断薬として利用でき、極めて安全性の高い診断を実現できる。

先行技術であるDNPによる励起装置により、FDG-PETや血流シンチグラフィーなどの主要な核医学検査の多くが、超偏極13C MRIで代替可能であることを示す報告が増えてきているが、数億円に及ぶ初期費用と長い励起時間が普及の課題となっていた。

水素ガスによる13C励起技術は、現在用いられている放射線被曝リスクのある核医学検査(PET/SPECT)に取って代わる、安く安全で汎用性の高い安定同位体標識による画像診断法として実用化が期待される、と研究グループは述べている。

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