EBウイルス関連疾患発症率の地域差に、ウイルスの性質の違いは関与?
東北医科薬科大学は2月3日、日本人の扁桃組織に潜伏感染しているEBウイルスが、他のアジア地域でみられるEBウイルス株とは異なる系統であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部の神田輝教授(微生物学教室)と太田伸男教授(耳鼻咽喉科学教室)らの研究グループが、国立遺伝学研究所、東北大学東北メディカル・メガバンク機構との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Journal of General Virology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
ヘルペスウイルスの一種であるEBウイルスは、成人するまでに約95%の人が感染する、ごくありふれたウイルス。しかし、その一方で、このウイルスはさまざまながんや疾患の原因にもなる。EBウイルスが関係する疾患の一部にはある特定の地域で高い発症率を示すものがある。アジアにおいては、EBウイルス陽性上咽頭がんの発症率は中国南部・東南アジア地域で高いのに対し、慢性活動性EBウイルス感染症や節外性NK/T細胞リンパ腫などの発症率は日本を含む東アジアで高いことが知られている。しかし、なぜこのような発症率の違いがみられるのか、その理由はよくわかっていない。特定地域の住民にみられる遺伝的な違いや、生活習慣の違いなどに加えて、それぞれの地域に分布しているEBウイルスの性質が違うという可能性も考えられる。
近年、世界各地で分離されたEBウイルス株について、それぞれの地域ごとの特徴を明らかにしようという試みが行われているが、これまで日本で分離されたEBウイルス株についてはあまり調べられていなかった。
日本人の扁桃組織に潜伏感染のEBウイルスの全ゲノム配列を決定
そこで研究グループは今回、日本人の扁桃組織に潜伏感染しているEBウイルスについて、ウイルスゲノム全長の塩基配列を決定し、日本人に無症候性に感染しているEBウイルス株の多様性について調べることを目的として研究を行った。
研究に用いた扁桃組織は、EBウイルスと関係のない疾患(慢性扁桃炎や睡眠時無呼吸症候群など)の治療のために扁桃摘出を行った日本人患者から、インフォームドコンセントを得たうえで提供されたもの。これらの扁桃組織に潜伏感染しているEBウイルス株について、ウイルスゲノム全長の塩基配列を決定した。
日本人感染ウイルスに多様性、アジア、東アジアでグループ形成も判明
決定した塩基配列を比較したところ、日本人の扁桃組織に潜伏感染しているEBウイルス株に多様性があることが明らかになった。また、日本と世界のEBウイルス株のゲノム塩基配列情報を用いて系統樹を作成したところ、アジアのEBウイルス株は欧州・米国・アフリカ・オセアニア地域に由来する株とは異なるグループを形成していることがわかった。さらに、アジア地域においては、日本を含む東アジアのEBウイルス株は中国南部・東南アジアのEBウイルス株と異なるグループを形成していることを見出した。
EBウイルス株の地域分布とEBウイルス関連疾患の好発地域が一致の可能性
この結果と、EBウイルス陽性上咽頭がんの発症率が中国南部・東南アジアで高く、慢性活動性EBウイルス感染症などの発症率が日本を含む東アジアで高いということをあわせて考えると、アジアにおけるEBウイルス株の地域分布とEBウイルス関連疾患の好発地域が一致する可能性があることが明らかになった。
今回の研究で、地域住民にみられる遺伝的な違いや、生活習慣の違いに加えて、その地域に分布しているEBウイルス株の違いも、アジアのEBウイルス関連疾患が特定の地域に好発する理由の1つである可能性が出てきた。研究グループは、「今後、アジアのEBウイルス株(日本を含む東アジア株と中国南部・東南アジア株)の違いを調べることによって、アジアのEBウイルス関連疾患に地域偏在がみられる理由を説明できるようになるかもしれない」と、述べている。
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