新宿歌舞伎町のホストクラブ店舗と従業員を対象とした調査
国立感染症研究所は12月28日、新宿区繁華街における、いわゆる「接待を伴う飲食店」における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクに関する調査研究の中間報告を公表した。COVID-19の流行では、いわゆる「接待を伴う飲食店等」における患者発生やクラスター発生を認めた。これらの感染の規模や従業員等が感染するリスクを知ることは、経済的・社会的活動と流行抑制を両立させるために重要だ。そこで、接待を伴う飲食店(ホストクラブ)を中心にインタビューやアンケート、店舗観察による疫学情報に加え、ウイルス検出・抗体検査による感染の情報を組み合わせ、感染リスクの高いと思われる集団における現状を明らかにすることを目的に、今回の研究調査が行われた。
調査の対象としたのは、2020年7月以降に、東京都新宿区歌舞伎町で協力の申し出があったホストクラブ店舗およびそれらの店舗の20歳以上の従業員。各店舗の観察調査、代表者へのインタビュー、従業員へのアンケートおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する唾液を用いたPCR検査と血清抗体検査(ロシュ・ダイアグノスティックス社Elecsys(R)Anti-SARS-CoV-2使用)を実施した。アンケートおよびPCR検査・抗体検査は、約1か月おきに複数回実施している(10月20日時点で継続中)。また、歌舞伎町全体(ホストクラブ以外の業種を含む)の接待を伴う飲食業の感染対策状況や感染対策等の意識把握のために、ホストクラブグループ代表者、キャバクラ店舗幹部等へのインタビューを実施した。調査結果の記述を行い、既知の感染リスク等の有無について検討を行った。以下に示すアンケート記載の従業員個人の行動については陽性者発生直前の感染拡大リスクを把握するために5月以降、店舗内で陽性者が探知されるまで(いずれも6月下旬~7月中旬)の期間における状況とした。
SARS-CoV-2感染者(以下、感染者)は、過去に受けたPCR検査で陽性が判明している者、本調査で唾液PCR検査、または抗体検査で陽性であった者とした。また、有症者は5月以降に発熱、咳嗽、咽頭痛、呼吸苦、全身倦怠感、嗅覚味覚障害、頭痛、下痢のいずれかを呈した者のうち、明らかに他の感染症と診断されなかった者とした。
4店舗の従業員のうち半数近くが感染、1割が今回の調査で感染判明
10月20日時点で、調査への協力があったのは4店舗68人(店舗A:21人、B:5人、C:21人、D:21人)だった。3店舗は3回目、1店舗は2回目までの調査時点で判明した結果、いずれの店舗も、調査開始以前に従業員の感染者がいた。感染者は全体で31人(46%)(店舗A:9人(43%)、B:2人(40%)、C:9人(43%)、D:11人(52%))だった。また、今回の調査を通じて初めて感染が判明した者(いずれも抗体検査で陽性が判明)が7人(10%)いた。感染者31人のうち、有症者は26人(84%)だった。
従業員アンケートでは、年齢中央値は26歳(範囲20-47歳)、新宿区内居住が46人(68%)、借上寮居住者が28人(41%)、同居者ありが32人(47%)だった。店舗内での感染対策状況は、接客中75%以上の時間でマスク着用していた者が42人(62%)、出勤前の検温や体調確認をしていた者が50人(74%)、客のマスク着用頻度が50%未満と答えた者が39人(57%)だった。店舗外の行動は、75%以上の時間でマスクを着用していた者が51人(75%)、客との同伴出勤やアフター(店舗営業終了後に従業員と客とが飲食等をともにすること)が週に1回以上あった者が34人(50%)、他の接待を伴う飲食店に週に1回以上行った者が1人(1%)、自店舗以外の人が密集する場所に週1回以上出かけた者が11人(16%)いた。酔いの程度は、勤務中(19~2時くらい)、アフターの時間帯(2~5時くらい)、朝(5~10時くらい)のそれぞれの時間帯で飲酒をする者、47人、39人、27人のうち、泥酔または酩酊となる者がそれぞれ10人(21%)、13人(33%)、8人(30%)だった。
感染対策強化するも、風営法による店舗構造により換気が難しいなど課題
4店舗の代表者インタビューから、3店舗が営業自粛要請明けの5月初め頃から感染症対策強化を始め、店舗内での従業員のマスク着用、出勤時の体温測定と有症状時の出勤停止の徹底、客への入店時の手指消毒の徹底および体温測定、一度に滞在する客数の制限、頻回の環境清掃(消毒)、回し飲みやシャンパンコール、イベントの自粛、可能な限りの換気等を行っていたことがわかった。一方で客のマスク着用率の低さ、深夜帯やアフター等で酔いが回ることによる感染対策への意識低下などが聞かれた。観察調査からは消毒剤の不適切な使用や管理、換気が難しい構造(風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律により店舗構造では「客室の内部が外部から容易に見通すことができないもの」とされていることもあり、窓がない、開けられない等)がみられた。
客への感染症対策の周知と協力、従業員個人の店舗外での行動への啓発等が重要
いわゆる「接待を伴う飲食店」は、密着、密集、密閉の「3密」が起こりやすい業種である。今回調査した4店舗では、調査時点で従業員の感染者の割合が40~52%と高かった。また、新たに過去の感染が判明した者(PCR検査受診の有無を問わず)が10%(いずれも過去に発症していた)おり、探知されていなかった者を含め店舗従業員の多くが感染していたことがわかった。
今回の店舗はいずれも複数の感染者が発生しているものの、発生前からほとんどの店舗では一般的な感染防止策として、マスク着用(1店舗は感染者発生後から)、入店時の手指衛生、共用物品や設備の消毒、入店時の体調チェック、従業員の衛生対策等について、可能な限りの対策がとられており、従業員も店舗の方針に従っていた。一方で、体調チェックの記録がない、不適切な消毒薬の使用(次亜塩素酸水は管理や使用方法の制限が大きく、アルコールを推奨)、換気の難しさ、客に感染症対策を実施してもらうことの難しさが明らかになった。加えて深夜帯やアフター時の酔いに伴う感染症対策への意識低下の可能性や集団生活といった社会背景、店舗外の従業員の行動に伴う感染リスクもあったと考えられた。なお、今回の調査では利用客へのインタビューや検査等は実施できていない。
インタビューで得た歌舞伎町の他の業種や他の店舗の感染症対策の取り組み状況から、今回の調査への参加店舗は感染対策に比較的熱心に取り組んでいる、いわゆる優良店と考えられた。新宿区をはじめ、地域ではさまざまな工夫をしながら多くの店舗に対して感染症対策への協力をお願いしており、歌舞伎町地域として感染症対策の底上げを図っている。今回の調査では、これらに加えて、地域や店舗を訪れる客への感染症対策の周知と協力、また従業員個人の店舗外での(客として店舗を訪れる際の)行動への啓発等が重要であることがわかった。