過敏性腸症候群で、男性には下痢が多く女性には便秘が多いのはなぜか?
岐阜大学は12月25日、ラットの大腸内に痛みの刺激を与えた場合、オスでは排便と関連する大腸の動きが誘発されるが、メスでは誘発されないことを確認したと発表した。これは、同大応用生物科学部の志水泰武教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Physiology」に掲載されている。
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大腸に痛みの元となる刺激があると、その情報が脊髄を経由して脳へと伝えられ、痛みとして感じられる。脳が痛みを感じると痛みを和らげるために、脳から脊髄に下行性疼痛抑制経路を通じて、痛みを抑える神経伝達物質が放出される。これまでに志水教授らは、神経伝達物質のうち、セロトニン、ドパミンなどのモノアミンが、痛みを緩和するのと同時に、大腸の運動を促進することを明らかにしてきた。本来は痛みを緩和する経路だが、脊髄に大腸の運動の調節部位があることと関連して、副次的に大腸にも影響を与えているものと理解できる。
過敏性腸症候群は、ストレスによるお腹の不調が慢性的に続き、仕事や勉学に集中できなかったり、旅行やスポーツ、レジャーを楽しめなかったりと、生活の質(QOL)を著しく低下させる。近年ではうつ病との関連も示唆されており、非常に大きな問題となっている。過敏性腸症候群の特徴として症状に性差があることが知られており、男性には下痢が多く、女性には便秘が多いと言われている。しかし、なぜ下痢や便秘といった大腸の動きと関連する症状に性差が出るのかについては、よくわかっていなかった。研究グループは、このメカニズムを解明することにより、性別に合わせた新しい治療法が開発できると考え、研究に着手した。
痛みに応答して脳から脊髄に供給される神経伝達物質の成分がオスとメスで異なると判明
研究は、オスとメスのラットに麻酔をかけた状態で実施。大腸内にカプサイシンによる痛み刺激を与えた場合、オスのラットでは大腸運動が促進されるが、メスのラットでは促進されないことを確認。さらに、大腸内の痛み刺激が脳に伝わった際に放出される神経伝達物質の成分が、オスとメスで異なることを確認した。
オスでは、ドパミンやセロトニンが放出され、これらが脊髄の排便中枢を活性化し大腸運動を促進する。一方、メスではドパミンは放出されず、セロトニンとGABAが放出され、結果として大腸運動を促進しない。その理由は、GABAが脊髄排便中枢を抑制し、これがセロトニンによる活性化の効果を打ち消しているためと考えられた。なお、大腸の有害刺激に応答してGABAが女性特有に働くのは、卵巣ホルモンによるもので、卵巣を除外したメスのラットは、オスのラットと同様の反応を示したという。
ストレスによって発生する下痢や便秘を改善する薬を、性別に合わせて選択できるようになる可能性
今回の研究により、男性には下痢が多く、女性には便秘が多いという排便異常に性差が現れるメカニズムの一端が明らかになった。この成果により、将来的にはストレスによって発生する下痢や便秘を改善する薬を、性別に合わせて選択することにつながることが期待される。
「本研究により、QOLの著しい低下をもたらすIBSの病態解明に近づき、中枢の乱れを是正する治療薬の開発、さらにオーダーメイド治療の道を拓くことが期待される」と、研究グループは述べている。
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・岐阜大学 研究成果