原因遺伝子FMR1、胎児期脳での役割は?
東北大学は12月16日、マウスの胎仔期脳の形成過程において、脆弱X症候群(fragile X syndrome:FXS)の原因となり得る新たな分子メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科発生発達神経科学分野の大隅典子教授、吉川貴子助教、Cristine R. Casingal学術研究員らの研究グループが、同大学院医工学研究科の稲田仁特任准教授、横浜市立大学大学院生命医科学研究科の佐々木幸生准教授との共同研究として行ったもの。研究成果は、「Molecular Brain誌」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
国の指定難病であるFXSは、神経発達障害のなかでも比較的発症頻度が高い遺伝性発達障害であり、精神遅滞や自閉症様症状を示す。日本では、男性1万人あたり1人程度の頻度で発症すると報告されている。
FXSは、X染色体にあるFMR1遺伝子の異常によって発症することが明らかになっており、FMR1遺伝子の産物であるFMRPタンパク質は標的となる遺伝子中間産物(mRNA)からつくられるタンパク質の量を調節する。
FMRPは大人の脳の神経細胞の正常な働きを助けているが、胎児期の脳の発生過程における役割は明らかにされていなかった。胎児期は、神経幹細胞と呼ばれる幹細胞から、脳の中で主に働く神経細胞がつくられる大切な時期であり、わずかな異常がその後の脳の発生過程に重大な影響を及ぼす可能性がある。
Fmr1欠損マウスでmTOR経路が異常に活性化、FXSの原因となる可能性
研究グループは、まずマウス胎仔の脳を用いて、FMRPが制御する可能性のある分子について、RNA免疫沈降法と次世代シーケンスを組み合わせた手法を用いて網羅的に探索。その結果、知的障害や自閉症、神経新生に関連する分子が多数見つかり、その中に細胞の分裂や増殖を制御する経路に関連する因子が多数含まれていることがわかった。これらの因子は、分子ネットワークmTOR経路を構成している。
実際、マウスにおいてFmr1の機能が失われると、mTOR経路が異常に活性化されていることを確認。これまでに、Fmr1遺伝子欠損マウスでは、胎仔期における神経細胞の形成過程に異常が認められることが報告されており、今回明らかにされた分子は胎仔期の脳の正常な発生発達に関与し、その異常によってFXSが引き起こされている可能性が考えられるという。
今回の研究によって、胎児期の脳の発生過程におけるFXS発症の原因となる分子メカニズムの一端が解明されたことで、これまで未解明であった、脳の発生期の異常によって引き起こされる遺伝性発達障害の理解が一層進むことが期待される、と研究グループは述べている。
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