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加齢黄斑変性、ARB投与で進行予防・視機能回復の可能性-慶大ほか

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2020年12月14日 PM12:30

抗酸化サプリメントが一定の効果を持つが、炎症の元は断てない

慶應義塾大学は12月10日、高脂肪食を継続摂取させて作製した加齢黄斑変性モデルマウスに対し、高血圧治療にも用いられているアンジオテンシンII 1型受容体拮抗剤(Angiotensin II type 1 receptor blocker:)を投与し、病態の進行予防・視機能回復に成功したと発表した。この研究は、同大医学部眼科学教室の坪田一男教授、小沢洋子特任准教授(聖路加国際大学研究教授併任)、永井紀博講師、同生理学教室の岡野栄之教授らを中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

加齢黄斑変性は50歳以上の1%以上に見られ、加齢とともに進行し、中心視力を脅かすため高齢化社会では社会問題となる疾患。片眼に発症した後、年月を経て他眼にも発症することは珍しくなく、Quality of Life(QOL)に大きく影響し得る。滲出型と萎縮型に分かれるが、両者の根底にはいずれも長年の慢性炎症と酸化ストレスの悪性サイクルがあり、ドルーゼンなどの異常な脂質蓄積による前駆病変をきたすこともある。しかし、このような病変が無くても網膜視細胞外節が短縮したり、黄斑部網膜の抗酸化ストレス作用を持つルテインが減少したりすることは、同研究グループの臨床研究で既に示されている。

この疾患の進行を遅らせるために、抗酸化サプリメントが一定の効果を持つことが既に臨床試験で示され、その成分の1つであるルテインが網膜に対して抗酸化作用を持つことを同グループでも報告してきた。しかし、この方法では炎症の元を断つことは期待できず、さらなる研究が必要とされている。

高脂肪食の継続摂取とレニン・アンジオテンシン系が関係すると仮説を立て検証

一方、加齢黄斑変性では網膜色素上皮の老化に伴う変化とともに、マクロファージのコレステロール排出障害が関連し得ることが報告された。しかしその分子メカニズムは不明だった。

そこで今回、研究グループは、高脂肪食の継続摂取が加齢黄斑変性のモデルとなると仮説を立て、さらにそれがストレス応答シグナルでありメタボリックシンドロームに関係の深いレニン・アンジオテンシン系と関係すると仮説を立て、その検証を行った。また、・アンジオテンシン系がコレステロール排出不全をきたす分子メカニズムの一端を解明した。

高脂肪食の継続摂取マウスは加齢黄斑変性モデルとして研究に利用可能と判明

高脂肪食の継続摂取は、マウスの網膜色素上皮に異常な脂質を沈着させ加齢黄斑変性の特徴的所見の一部を示し視機能を低下させた。また、マクロファージのコレステロール排出に働くトランスポーターであるABCA1の発現を低下させ、その結果、脂質(酸化LDL)が異常蓄積したマクロファージでは炎症性サイトカインの発現が上昇した。そしてこのことが上述の加齢黄斑変性の特徴的所見を引き起こしたことが明らかとなり、高脂肪食を継続摂取させたマウスが加齢黄斑変性モデルとして研究に利用可能であることが示された。

ARBに効果、ABCA1発現維持で脂肪蓄積とマクロファージ活性化を防ぐ可能性

さらに、ARBを投与するとその所見がほとんど見られなくなることから、ARBがABCA1上流のシグナルを回復させることでABCA1の発現を維持し、脂質の蓄積を防ぎ、マクロファージの活性化に伴う炎症性サイトカインの発現を防ぎ加齢黄斑変性の基盤病態を抑制し得ることが示された。

今後は、ヒトでの臨床応用に向けて、さらなる分子メカニズムの解明が期待される。また、研究グループは、「ヒト臨床試験で進行予防効果を効率よく測定するためのバイオマーカーを確立するために、加齢黄斑変性およびその前駆病変を持つ患者の基盤データを集めることが必要とされる」と、述べている。

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