医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 自発的に行う運動、そのきっかけに「匂い」が関連する可能性-UCRほか

自発的に行う運動、そのきっかけに「匂い」が関連する可能性-UCRほか

読了時間:約 2分17秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月07日 PM04:00

「運動好きな人」は、なぜ自発的に運動を始めるのか

米カリフォルニア大学リバーサイド校は11月25日、嗅覚が哺乳類の自発的な運動への動機付けに重要な役割を果たす可能性があることを発見したと発表した。これは、同大のSachiko Haga-Yamanaka助教、Theodore Garland Jr.教授らの研究グループと、九州大学大学院医学研究院の堅田明子助教の共同研究によるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載されている。


※イメージ

嗅覚は、食物探索や社会的相互作用、生殖行動、恐怖行動などの内発的動機付けによる行動を制御する上で重要な役割を果たしている。両生類や有鱗目、げっ歯類を含むほとんどの哺乳類には、嗅覚器の1つとして「鋤鼻(じょび)器官」が備わっている。動物が生成して環境に放出する化学物質であるフェロモンは鋤鼻器官の鋤鼻受容体に結合し、その後、脳の扁桃体と視床下部で処理され、行動反応と内分泌学的変化を誘発、フェロモンを受け取った側の行動や生理的変化として現れる。

ヒトにとって運動は、肥満や病気の予防という観点から重要なことの1つだ。運動好きな人たちは存在するが、なぜその人たちが運動好きなのかはよくわかっていない。一方、同じ哺乳類のマウスにとって、ホイールランニング(voluntary wheel running:VWR)をすることは自然な、自発的な運動行動である。先行研究において、同系統のマウスの尿が存在する環境では、成体の野生型マウスのVWR活性が高まることが示されていた。そこで今回研究グループは、哺乳類において自発的な運動が引き起こされる理由に「匂い」が関わっているか、また遺伝的影響があるかを確かめるため、マウスを用いて鋤鼻器官に着目した研究を行った。

よく運動をするマウスと通常のマウスでは、鋤鼻器官の遺伝子発現に差

研究グループはまず、複数のマウスにVWRを行わせ、その中からVWRをよく行うマウスを選び、繁殖させ、4ラインの独立した人工進化マウス(High Runners;HR系統)を確立した。対照系統として、選択的な繁殖を行わなかったマウスを4ライン用意し、それぞれのオス、メスの鋤鼻器官の組織について解析を行った。

その結果、HR系統と対照系統で、132の遺伝子に発現の差が見つかった。そのうち、鋤鼻受容体遺伝子は19あり、それらはV1R、、FPR遺伝子ファミリーに属していた。また、ゲノムワイド解析によって、HR系統4ライン全てに存在する、あるいは全てに存在しないSNPクラスターが11特定された。これら11のSNPクラスターには、計61のSNPが存在していた。

興味深いことに、これら61のSNPのうち8つは、17番染色体上の約3Mbの鋤鼻受容体クラスターに存在していた。また、発現に差があった19の鋤鼻受容体遺伝子のうち9個はこのSNPクラスターに位置していた。これらの結果から、選択的繁殖により、HR系統のマウスに遺伝的にも選択が起こったことが示された。

運動を促す匂いの化学物質の特定へ

今回、鋤鼻受容体遺伝子発現とマウスの運動習慣の関連が明らかになったことから、ヒトにおいても、運動習慣の個人差が、特定の匂いの知覚の違いによって説明される可能性が考えられる。研究グループは今後、マウスが生成する特定の化学物質を尿から分離し、これらの化学物質が自発的な運動を促進するか、またどのように作用して高まるかを詳しく研究する計画だ。

「フィットネスジムやチームスポーツにおいて、人々は多くの嗅覚刺激を受けている。将来、運動を誘導する化学物質を特定し、ジムの芳香剤のように使用することも可能になるかもしれない」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大