医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > パーキンソン病、運動症状発現前の血圧、血液の値の変化を発見-名大ほか

パーキンソン病、運動症状発現前の血圧、血液の値の変化を発見-名大ほか

読了時間:約 3分43秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月02日 PM01:30

運動症状発現前にバイオマーカーとなりうる変化は?

名古屋大学は11月26日、パーキンソン病を対象とした臨床研究において、患者が過去に受診した健康診断の結果を解析することで、運動症状の発現前に血圧、、血清コレステロールの値が変化することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の勝野雅央教授、横井克典大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

パーキンソン病の原因は脳内のドーパミン神経の死滅である。主な症状は振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害などの運動症状であるが、認知機能障害、幻視、便秘、レム睡眠行動障害(RBD)、嗅覚低下、うつ病などの非運動症状もみられる。運動症状の発現時には、すでに50%以上のドーパミン神経が死滅していることが知られている。また、非運動症状のうち、便秘、RBD、嗅覚低下、うつ病は、運動症状が発現する10~20年前から現れる。これらのことから、パーキンソン病にかかわる生体変化は、運動症状の発現よりかなり前から始まっていると考えられている。

症状の発現前に神経細胞が死滅しているという現象は、パーキンソン病に限らず、多くの神経変性疾患に共通する現象だ。例えば、アルツハイマー病でも主症状である認知症が発現する20年以上前からアミロイドβが脳内に溜まることが知られており、認知症の発症前に診断・治療を開始する試みが進められている。こうした試みを実用化するためには、症状が発現しないうちに脳や体の状態を見極めるためのバイオマーカーが必要だ。しかし、パーキンソン病の運動症状発現前のバイオマーカーの連続した変化についてはほとんど知られていない。そこで研究グループは、パーキンソン病患者が過去に受診した健康診断の結果の経時的変化を解析し、運動症状の発現前に体内で始まっている変化をとらえることで、早期診断のためのバイオマーカーの開発を計画した。

患者45人、健常者120人の健診データを性別ごとに比較

同大付属病院と岐阜県の久美愛厚生病院に通院中で、運動症状発現前の健診結果を持っていた45人のパーキンソン病患者(男性22人、女性23人)と、4年以上の健診の受診歴を持ち、神経疾患の既往やパーキンソン病の家族歴、パーキンソン病の非運動症状を持たない120人の健常者(だいどうクリニックの健診受診者、男性60人、女性60人)の健康診断結果を分析した。まず、パーキンソン病患者群と健常者群の各項目のベースライン値(パーキンソン病患者では運動症状が発現した年、健常者では最終の健診を受けた年)を性別ごとに比較した。

その結果、男性では、体重、肥満度指数(BMI)、ヘマトクリット(Ht)、総コレステロール()、低密度リポタンパク質コレステロール()、クレアチニン(Cr)において、両群の間に統計学的有意差があり、すべての項目でパーキンソン病患者群の方が低い値を認めた。女性では、収縮期血圧、拡張期血圧、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、T-Choでパーキンソン病患者群と健常者群の間に統計学的有意差が見られ、収縮期血圧、拡張期血圧、ASTの値は健常者に比べて女性患者で高かったのに対し、他の指標の値は女性患者で低値であった。

女性患者では運動症状発現前に血圧が上昇

次に、パーキンソン病患者群の運動症状発現前の身体的変化を検索するために、身長、体重、BMI、収縮期血圧、拡張期血圧について男女それぞれを混合モデルで分析した。その結果、収縮期および拡張期血圧の値は、女性患者では運動症状発現前に上昇し、運動症状の発現が近づくにつれて低下し、健常者に近づいたが、これらの傾向は男性では見られなかった。混合モデル分析の結果を確認するために、各項目の実際のデータを発症前5年毎に区切って直接比較したところ、収縮期および拡張期血圧の上昇は、女性患者の運動症状発現の6年以上前に観察されたが、混合モデルと同様に、健常者との差は徐々に小さくなった。

男性患者では運動症状発現前にHt/T-Cho/LDL-Choの値が低下

さらに、血液検査項目のうちベースラインでパーキンソン病患者群と健常者群とで統計的有意差を示したHt、AST、T-Cho、LDL-Cho、Crの項目についても、混合モデルを用いて解析を行った。男性患者では、運動症状の発現前にヘマトクリット値が低下し始めた。T-ChoおよびLDL-Cho値も、男性患者の運動症状の発現前に低下を認めました。女性患者では、これらの値の運動症状発現前の変化は観察されなかった。実際のデータを直接比較すると、男性患者のHt値は、運動症状発現の5~1年前で健常者より低下していた。またT-Choレベルは、運動症状発現の5〜1年前に低下し始めたが、女性患者では運動症状発現後にのみ値が低下。血清LDL-Choレベルについても同様の結果が得られた。

見つかったバイオマーカー候補と非運動症状などを組み合わせ、早期診断に

以前の研究において、男性ではコレステロールの値が高いとパーキンソン病を発症するリスクが減ること、女性では血圧が高いとパーキンソン病を発症するリスクが増えることが報告されており、今回の研究結果と合致していた。また、男女を問わず貧血があるとパーキンソン病を発症するリスクが増えることも報告されており、今回の研究における男性患者の健診結果と合致したが、女性でそのような変化が見られなかったことについては、今後さらなる解析が必要だ。

今回の結果から、健康診断の項目のうち、、ヘマトクリット値、血清コレステロール値がパーキンソン病の運動症状発現前のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。パーキンソン病の運動症状発現前に、すでに自律神経機能や貧血、代謝などに関する生体変化が始まっていることを示しているものと考えられる。「これらの検査値を、非運動症状などに関する他の検査と組み合わせることで、将来的にパーキンソン病の早期診断(運動症状の発現前の早期発見)が可能になると考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか