医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 小脳ルガロ細胞は小脳活動の調節に重要なニューロンの可能性-北大ほか

小脳ルガロ細胞は小脳活動の調節に重要なニューロンの可能性-北大ほか

読了時間:約 2分57秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月01日 PM12:30

小脳ルガロ細胞が蛍光を発する遺伝子改変マウスで研究

北海道大学は11月30日、小脳ルガロ細胞が蛍光を発する遺伝子改変マウスの作製に成功し、小脳活動を強力に調節しうる新規神経回路を同定したと発表した。この研究は、同大大学院保健科学研究院の宮﨑太輔准教授らの研究グループと、慶應義塾大学医学部・田中謙二准教授、北海道大学大学院医学研究院の渡辺雅彦教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Neuroscience」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

小脳皮質には皮質内の出力を行うプルキンエ細胞と、この神経活動を調節する数種類の抑制性介在神経細胞がある。ルガロ細胞は特徴的な形態をもつ抑制性介在神経細胞として知られていたが、選択的に可視化する方法がなく、顕微鏡で観察することは困難だった。そのため、ルガロ細胞の研究はあまり進んでおらず、どのような神経回路を形成し、小脳活動にどのように関わっているかなど、基盤情報については不明な点が多く残されていた。

研究では、ルガロ細胞を高い効率で標識する新規遺伝子改変マウスを作製。このマウスを用いて in situハイブリダイゼーション法、免疫染色法、免疫電子顕微鏡法、単一神経標識法を用いて、ルガロ細胞の神経解剖学的特性の解明を目指した。

ルガロ細胞は興奮性・抑制性・セロトニン作動性の多様な神経入力を受ける

小脳は、前後軸に伸びる帯状構造を作ることが知られている。バンドと呼ばれるこの構造は小脳の機能単位として働き、固有の入出力回路を持っている。しかし、同一バンド内のプルキンエ細胞(出力細胞)が同じタイミングで発火しないと小脳外まで伝わる出力信号にはならないことが知られている。

今回の研究から、バンドに対応したルガロ細胞の特徴的な細胞構築と回路構築が明らかとなった。ルガロ細胞が入力を受け取る樹状突起と細胞体は互いに結合した網目構造を形成してプルキンエ細胞直下に広がり、これがバンド間の境界まで広がっていた。この網目構造が、脳幹や小脳顆粒細胞からの興奮性入力、小脳皮質内からの抑制性入力、脳幹からのセロトニン入力など、多様な神経入力を受けていた。

ルガロ細胞の活動は小脳活動の生成や亢進へ導くことを示唆

一方、ルガロ細胞からの軸索出力は分子層に向かい、そこに分布する他の抑制性介在神経細胞群(バスケット細胞、星状細胞、ゴルジ細胞)を標的としていた。その支配様式には2種類が見られ、特定のバンド内の標的細胞を「強力に」支配する上行線維と、複数のバンドを超えて「薄く、広く」支配する横行線維から構成されていた。このような入出力関係から、ルガロ細胞は特定のバンドに到来する多様な神経入力を統合し、その結果生成されるルガロ細胞の活動は一義的には同一バンド内の他の抑制性介在神経細胞を強力に抑制し、さらなる活動性の増強により周囲のバンドへも抑制が広がっていく可能性を物語る。

この「抑制性介在ニューロン選択的な抑制性介在ニューロン」という回路構築学上の特徴は、ルガロ細胞が他の抑制性介在ニューロンの抑制を介してプルキンエ細胞や顆粒細胞を脱抑制することで、小脳活動の生成や亢進へと効果的に導く細胞機能を示唆している。

ルガロ細胞はセロトニン作動性軸索の選択的標的として非シナプス性接着を密に形成

多様な生理作用を有する神経伝達物質のセロトニンは、ルガロ細胞に対して強力な発火作用をもつことが知られている。今回の研究から、セロトニン作動性線維はルガロ細胞の細胞体や樹状突起に近接したり巻き付いたりして、電子顕微鏡で観察すると非シナプス性の密着構造を多数形成していることが判明した。

この密着により、セロトニン放出が起こればルガロ細胞周囲のセロトニン濃度が急峻に上昇し、ルガロ細胞の興奮性を効果的に調節していると考えられる。つまり、ルガロ細胞は小脳のセロトニンセンサーとして機能し、抑制性介在ニューロン選択的な抑制性介在ニューロンという特異な細胞特性を介して、状況に応じた小脳帯域の活動性制御と小脳高次機能の発現に貢献するものと考えられる。

ルガロ細胞を中心とする神経回路が個体レベルでどう機能するかを今後検討

これらの研究成果は、ルガロ細胞が小脳全体の活動調節に関わる重要なニューロンである可能性を強く示唆する。また、セトロニンには睡眠・覚醒、心の安定、生体リズム、体温調節など多様な生理作用があり、セトロニンニューロンの活動性は個体の置かれた状況に応じて変化することが知られていることから、ルガロ細胞は小脳神経回路におけるセロトニンセンサーとして機能することで、個体の置かれた状況に応じた小脳の活動性制御と小脳高次機能の発現に貢献するものと考えられる。「今後、今回得られた解剖学的知見を手がかりとして、ルガロ細胞を中心とする神経回路が個体レベルでどのように機能しているかを明らかにしていく予定だ」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大