従来法では「判定に時間がかかる」「鑑別精度が人に依存する」などの問題があった
大阪大学は、ナノポアセンサとAI技術を融合させた1粒子検出法を用いて、代表的な呼吸器感染性ウイルス5種(コロナウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス)を高精度に識別することに成功したと発表した。この研究は、同大産業科学研究所の筒井真楠准教授、川合知二招聘教授、鷲尾隆教授、黒田俊一教授と、名古屋大学工学研究科の有馬彰秀特任助教、馬場嘉信教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Sensors」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
現在、臨床現場におけるウイルス感染の判定は、対象となるウイルスの遺伝子を増幅させるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法や、1対1の抗原抗体反応を基盤とするイムノクロマトグラフィーで行われている。これらの手法は、それぞれ精度と迅速性の観点から非常に優れた手法であるものの、PCR法は判定まで一定の時間が必要であり、さらには対象のウイルス由来の特徴的な遺伝子情報が必要だ。一方、イムノクロマトグラフィーでは、キットの作製にはウイルスの抗体が必要であり、さらにその識別精度が人に依存するという課題があった。
ウイルス粒子1個で71%、25個以上の検出で99%以上の精度でウイルス種を判定
今回、研究グループは、ナノポアセンシングの単一粒子検出能という究極の感度を用いて、代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出を行った。さらにそのシグナル解析では、波形の高さや幅、尖度などの形状に関する特徴量のほか、シグナルを分割した際の各領域の値に着目。AI技術を用いることで、これらの特徴量を利用した高次元解析を行った。
その結果、ウイルス粒子1個で71%、25個以上の検出で99%以上の精度でウイルス種判定が可能であることを実証した。
多項目のウイルスに対し、感染初期に原因特定が可能な検査キットの登場に期待
今回の研究成果により、多項目のウイルスに対し、感染初期でのウイルス感染症の原因特定が可能になり、感染の早期発展を通したウイルス感染の拡大抑止が期待される。さらに、症状の類似した感染症に対しても、ウイルス粒子の物理的な特性に基づく人依存性のない判定へとつながると考えられる。
「本手法の発展により、従来の1種類のウイルス同定のみに限定されている検査キットの性能を大きく超えた多項目ウイルス検査の実現が期待される」と、研究グループは述べている。
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