機能が不明だった「Gpr115」を詳しく解析
東北大学は11月6日、機能が不明だった「Gpr115」という受容体が、歯のエナメル質の形成に関与し、歯の石灰化機構を制御していることを見出したと発表した。これは、同大大学院歯学研究科小児発達歯科学分野の千葉雄太助教、福本敏教授(九州大学大学院歯学研究院教授を兼務)らのグループと、米国国立衛生研究所との共同研究によるもの。研究成果は、「The Journal of Biological Chemistry」に掲載されている。
画像はリリースより
現在、iPS 細胞などの幹細胞を用いた臓器の再生研究が進んでおり、小型動物では歯の再生が可能となっている。しかし、ヒトの永久歯の形成には生体内の発生段階においても10年近くかかるため、再生医療の実用化には臓器形成時間の短縮化が課題となっている。また、試験管内での歯胚培養法では、歯胚の大きさの成長は観察できるものの、歯の最終的な形成段階である石灰化までは誘導できておらず、今後は歯の石灰化のメカニズム解明が最重要課題と考えられている。
Gタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptor:GPCR)ファミリーは、既知のタンパク質において最大のファミリーを形成しており、ヒトにおいて700種類以上もの分子が発見されている。また、市販の薬剤の約3分の1はこのGPCRを標的としており、薬剤開発の主な対象分子となっている。GPCRは器官の発生にも重要な役割を有することが多いものの、歯の発生におけるGPCRの解析は進んでおらず、不明な点が多かった。
今回研究グループは、歯に発現する遺伝子のスクリーニングから、今までに機能が全く不明であったGPCRの1つ「Gpr115」という受容体が歯に強く発現していることを発見し、その分子の解析を行った。
Gpr115はエナメル芽細胞周囲の水素イオン濃度を調整することで歯の石灰化に関与
歯の形成過程におけるGpr115の発現を調べたところ、エナメル質の石灰化に重要な役割を持つ、成熟期のエナメル芽細胞に高発現であることが判明した。そこで、Gpr115の歯胚発生過程における役割を明らかにする目的で、Gpr115の機能を欠失させるように遺伝子操作したマウス(Gpr115 欠損マウス)を作製し解析した。そのマウスの歯の形成状態を解析すると、エナメル質の石灰化が悪く、歯が白濁したエナメル質形成不全症を呈した。
さらに、走査型電子顕微鏡を用いてエナメル質の構造を観察してみると、通常のマウス(野生型マウス)で見られるエナメル質の結晶構造が形成されていないことが明らかとなった。この原因は、エナメル質の結晶が成長する際に放出される水素イオンにGpr115が反応し、水素イオンの中和反応酵素である炭酸脱水酵素Car6を生成することで、エナメル質の結晶の成長を促進するためであることが判明した。
今回の研究より、機能が発見されていなかったGpr115が、エナメル芽細胞周囲の水素イオン濃度を調整することで、歯の石灰化に関与していることが新たに判明した。「この結果は歯のエナメル質石灰化メカニズムの解明や、Gpr115を標的とした薬剤開発により、歯の再生における培養歯胚の石灰化促進法探索の手がかりとなることが期待される」と、研究グループは述べている。
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