ミニ肝臓を培養するための臨床用分化誘導法の開発と生原基に対応した培地を開発
横浜市立大学は10月22日、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓の製造に必要な3種類の細胞(肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)をヒトiPS細胞から分化誘導し、ミニ肝臓を培養するための最適な分化誘導法と生物由来原料基準に対応した臨床向け分化誘導用サプリメント(StemFit(R)For Differentiation [開発コードAS400])の開発に成功したと発表した。これは、同大大学院医学研究科 臓器再生医学 谷口英樹特別契約教授(東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 再生医学分野 教授)、関根圭輔客員准教授(東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター 再生医学分野 客員研究員、国立がん研究センター独立ユニット長)らの研究グループが、味の素株式会社、東京大学医科学研究所らと共同で行ったもの。研究成果は、「Scientific Reports」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
再生医療に用いる細胞の製造には、安全性と安定性の観点から、ヒト以外の動物由来の物質を含まず、化学的に組成が明らかな培地の使用が生物由来原料基準(生原基)において望まれている。また、研究グループは現在、2013年に確立したミニ肝臓の作製技術の再生医療への応用を目指しており、安全な製品を製造するための培地が必要だった。これまでヒトiPS細胞の分化誘導条件の検討から、高い分化誘導効率と機能性を持ったミニ肝臓の作製に成功しているが、それらは研究用培地を用いた方法だった。未分化ヒトiPS細胞の培養用の生原基対応培地は、京都大学の山中教授らのグループによって開発されていたが、ミニ肝臓の分化誘導用培地には生原基に対応しない成分が含まれていた。
そこで今回、味の素株式会社と共同で、ミニ肝臓を作製する上で必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞を、それぞれ未分化ヒトiPS細胞から分化誘導するための生原基に対応した培地、ミニ肝臓を培養するための臨床用分化誘導法の開発と生原基に対応した培地の開発に取り組んだ。
開発したサプリメントは肝臓細胞等の内胚葉細胞だけでなく、その他の細胞分化誘導にも有効
研究グループは、これまでに開発したヒトiPS細胞由来ミニ肝臓に必要な全ての細胞をヒトiPS細胞から作製する分化誘導法をもとに、肝臓細胞の分化誘導に必要な各ステップの培地と、臨床向け分化誘導用サプリメントの検討を行った。
まず、iPS細胞から胚体内胚葉細胞に分化誘導するステップIの培地開発に成功した。従来の分化誘導法では、ステップIでは血管内皮細胞や間葉系細胞の分化誘導においても同じサプリメントを用いていたことから、今回、肝臓細胞分化用のステップIに対して開発したサプリメントが血管内皮細胞(ステップIV)、間葉系細胞(ステップV)の分化誘導も有効か否かを検討した。その結果、これらの細胞の分化誘導にも有効であることが明らかとなった。さらに、従来法でのサプリメントは神経系細胞の分化誘導にも用いられていたことから、今回開発したサプリメントについて神経系細胞の分化誘導での有効性も確認した。
次のステップIIでは、これまでに味の素株式会社において別の目的で開発されていた培地StemFit(R)Basic03が有効であること、さらに大幅な機能の向上に成功。ステップIIIでは、基礎となる培地の検討後、サプリメントの各成分を一つひとつ検討すると、ほとんどのサプリメントを除いても従来培地と同等であることを明らかにしました。ミニ肝臓培養(ステップVI)はステップIIIの培地と別の市販培地を組み合わせることで、有効な培地となることが判明。最終的にこれら全てを組み合わせて製造したミニ肝臓が生体内で肝機能を発揮することが示されたという。
未分化なiPS細胞からミニ肝臓の作製に必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞の分化誘導、ミニ肝臓を培養するための分化誘導法の開発、さらに分化誘導用サプリメントの開発に成功した。同サプリメントは肝臓細胞等の内胚葉細胞のほか、血管、神経等、さまざまな細胞の分化誘導にも有効な生原基対応分化誘導用サプリメントとして、ヒトiPS細胞由来のさまざまな再生医療用細胞の製造における品質・有効性および安全性向上に貢献が期待される。
ヒトiPS細胞由来の再生医療用細胞製造における品質・有効性・安全性向上への貢献に期待
研究グループは現在、AMED「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」において、国立成育医療研究センターとともに、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓を用いた再生医療の実現へ向け、研究開発を進行中。今回の研究で開発した分化誘導法および分化培地を用いることにより、品質・有効性および安全性を確保された、治験にも対応可能な臨床用ミニ肝臓の製造が可能となる。
また、今回の研究を通して開発された臨床向け分化誘導用サプリメントは「StemFit(R)For Differentiation」として味の素株式会社から販売され、ミニ肝臓だけでなく、ヒトiPS細胞を用いた他の細胞・組織・臓器の製造工程における有用性が見込まれることから、ヒトiPS細胞を用いた再生医療応用の加速への貢献が期待される。
▼関連リンク
・横浜市立大学 先端医科学研究センター 研究成果