重症化および死亡が高齢者に偏る傾向、その理由は?
北海道大学は10月2日、新型コロナウイルス感染症における重症者および死亡者が高齢者に偏る現象について、感染症流行の数理モデルを用いて検証し、感染成立後の病状の進行の進みやすさが年齢によって異なることが明らかになったと発表した。これは、同大人獣共通感染症リサーチセンターの大森亮介准教授、広島大学大学院医系科学研究科の松山亮太助教、青山学院大学理工学部物理・数理学科の中田行彦准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
新型コロナウイルス感染症は出現以来パンデミックとなり、世界的な流行が観測されている。また、新型コロナウイルスの重症例および死亡例は、高齢者に多く認められることが全世界で共通して報告されており、重症化および死亡のメカニズムの解明は死亡を防ぐために急務といえる。重症化および死亡の発生が高齢者に偏る現象の原因としては、高齢者が感染しやすい、もしくは、感染のしやすさは年齢によらないが、感染成立後の重症化のしやすさが高齢者ほど高いという2つの理由が考えられる。そこで研究グループは、どちらがもっともらしいかについて検証した。
画像はリリースより
流行規模は異なるが、死亡年齢分布は変わらない3か国に着目
研究グループは、2020年5月時点で流行規模が大きく異なったイタリア、スペイン、日本の3か国で比較しても死亡の年齢分布はほぼ変わらないという現象に注目した。流行規模に依存しない死亡の年齢分布が観察されるには、どのような重症化および死亡の年齢依存性があるかを把握する必要がある。
そこで、年齢別の新型コロナウイルスの流行の数理モデルを構築。この数理モデルでは、年齢による人の接触のしやすさの違い、新型コロナウイルス流行による家庭外での行動制限も考慮した。この数理モデルを前述した3か国の死亡年齢分布のデータにあてはめ、年齢別の感染のしやすさを推定し、その推定値から新型コロナウイルスの重症化および死亡のメカニズムの可能性について議論した。
「感染のしやすさ」は、年齢によらないと判明
まず、数理モデルにより、死亡率は年齢によらないが、感染のしやすさが高齢者ほど高いという仮定では、重症化および死亡の発生が高齢者に偏るという現象を起こし得ることを確認した。しかしこの条件では、死亡の年齢分布は流行規模に大きく左右され、イタリア、スペイン、日本で観察された流行規模に依存しない死亡の年齢分布と合致しなかった。
一方、感染のしやすさは年齢によらないが、死亡率は高齢者ほど高いという仮定では、死亡の年齢分布は流行規模にほぼ影響を受けない結果となり、観察データと合致した。また、死亡率が年齢によらず、一定、もしくは症状が出る率が年齢によらず一定という2つの仮定のもとで、数理モデルを3か国の死亡の年齢分布のデータにあてはめ、感染の年齢別の感染のしやすさを推定。どちらの仮定においても、年齢間で感染のしやすさ非現実的に大きく異なる推定値になり、死亡率が年齢によらず一定、もしくは症状が出る率が年齢によらず一定という仮定が妥当でないことが示唆された。
このことから、死亡率や症状が出る率といった病状の進行の進みやすさが年齢によって異なることが、新型コロナウイルス感染症の重症および死亡は高齢者に偏る傾向の原因であると考えられることが明らかになった。
今回の研究成果は、感染による死亡を未然に防ぐ手法の開発において重要だ。新型コロナウイルス以外の感染症に感染した経験から、新型コロナウイルスに感染しやすくなっているといった、感染のしやすさが年齢とともに異なるような状況も十分に考えられた。感染のしやすさが年齢に依存しないことの示唆は、重症化および死亡のメカニズム解明に貢献するものと考えられる。「今後の病状進行の年齢依存性のメカニズムの解明により、治療手法の開発の発展が期待される」と、研究グループは述べている。
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