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末梢性T細胞リンパ腫発症にVAV1遺伝子変異が関与-筑波大ほか

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2020年10月07日 PM12:45

末梢性T細胞リンパ腫ではさまざまなVAV1変異パターンの報告がある

筑波大学は10月6日、末梢性T細胞リンパ腫発症に関与する遺伝子を発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系の千葉滋教授を中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」に掲載されている。


画像はリリースより

リンパ球系の悪性腫瘍は、白血病などの、成熟していないリンパ球により生じる前駆リンパ系腫瘍と、悪性リンパ腫などの、成熟したリンパ球により生じる成熟リンパ系腫瘍に大別される。リンパ球にはB細胞やT細胞、NK細胞などがあり、日本においては、リンパ系腫瘍全体のうち、T細胞系腫瘍の発症頻度は約10%だ。T細胞系リンパ腫は、病理学的あるいは遺伝学的な性質に基づいてさらに細分化されるが、近年のゲノム解析の進展により、さまざまな亜型の存在も明らかになってきた。これらは予後が悪い疾患群でもあることがわかっている。

2017年に同研究グループは、T細胞系リンパ腫のうち、複数の成熟リンパ系腫瘍()において、VAV1遺伝子に変異のある症例を見つけた。また、末梢性T細胞リンパ腫の亜型では、VAV1遺伝子変異に加え、腫瘍抑制因子をコードする遺伝子TP53の変異が共在している傾向があることもわかった。末梢性T細胞リンパ腫におけるVAV1遺伝子の変異はさまざまなパターンが報告されているものの、生体内での腫瘍形成におけるVAV1変異体の機能はいまだに不明だ。そこで今回、研究グループは、その機能を解明することを目指した。

VAV1欠損マウスを作製、未成熟と成熟の2種のTリンパ腫が発症

まず、末梢性T細胞リンパ腫で生じるVAV1遺伝子の変異(欠失変異V-Delおよび融合変異V-Fus)を導入した遺伝子改変マウスを作製し、これと、腫瘍抑制因子をコードするTP53遺伝子が欠損したマウス(p53-/-マウス)を交配させたモデルマウス(p53-/--Tg)を作製し、解析した。その結果、p53-/-VAV1-Tgマウスは、p53-/-マウスと比べて生存期間が短く、また胸腺腫(前駆リンパ系腫瘍であるT細胞性リンパ芽球性リンパ腫)を発症するマウスと、肝脾腫およびリンパ節腫脹(成熟リンパ系腫瘍)を発症するマウスを確認した。一方でp53-/-マウスでは、胸腺腫を発症するマウスのみが確認された。また、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫のうち、Tリンパ球の特徴を示すCD4抗原とCD8抗原を調べたところ、p53-/-VAV1-Tgマウスから得られたものはCD8単独陽性(SP)が多く、一方でp53-/-マウスから得られたものはCD4 CD8両陽性(DP)のものが多い結果となった。このことは、Tリンパ球が成熟していく段階でCD4 CD8DPを経て、CD4SPあるいはCD8SPのTリンパ球となることから、p53-/-VAV1-Tgマウスから得られたものがより成熟した段階のものであることがわかった。また、成熟リンパ腫はp53-/-VAV1-Tgマウスのみで認められており、CD4SPのもの、あるいはCD4 CD8両陰性(DN)のものを確認した。組織切片の観察では、胸腺腫瘍を発症したマウスでは、皮質と髄質の境界が破壊され、成熟していないリンパ球によって浸潤されており、一方で、脾腫を発症したマウスでは、濾胞の拡大あるいは構造が破壊され、成熟リンパ球の浸潤が認められた。また、T細胞受容体シグナルを伝達するVAV1タンパク質の活性化の状態を確認するため、リン酸化VAV1を評価したところ、p53-/-V-Fusマウス(VAV1遺伝子が融合変異しTP53遺伝子が欠損したマウス)から得られた成熟リンパ球系腫瘍サンプルのみでVAV1タンパク質が活性化した状態を示すリン酸化VAV1が陽性であることが確認された。

次に、野生型マウスおよび腫瘍を発症したマウスにおける血清中のサイトカイン濃度を比較したところ、野生型マウスおよびT細胞性リンパ芽球性リンパ腫を発症したp53-/-マウス・p53-/-VAV1-Tgマウスと比較して、成熟リンパ系腫瘍を発症したp53-/-VAV1-Tgマウスで、ヘルパーT細胞の一種であり主にアレルギー反応に応答すると知られているTH2細胞が主に分泌すると知られているインターロイキン-4()、、IL-10のサイトカイン濃度が有意に増加していた。この結果から、成熟リンパ系腫瘍の細胞はTH2細胞の表現型へ傾倒しており、成熟リンパ系腫瘍を発症したp53-/-VAV1-Tgマウスの体内でTH2細胞が増加していることが示唆された。

ヒトと同様にCCR4やMYCが高発現、VAV1変異の影響と確認

得られたT細胞性リンパ芽球性リンパ腫および成熟リンパ腫の細胞を取り出し、野生型マウスの胸腺と脾臓から取り出した細胞とともに網羅的ゲノム解析を行い、全遺伝子の発現を層別化すると、野生型マウス・p53-/-マウス・p53-/-VAV1-Tgマウスで層別化される結果となった。T細胞性リンパ芽球性リンパ腫と成熟リンパ腫に共通してp53-/-VAV1-Tgマウスにおいて、対照群に比べて3倍以上遺伝子発現が高かった遺伝子にはMyc遺伝子が含まれており、Myに関連したシグナル伝達経路が有意に高発現であったこともわかった。さらに、p53-/-VAV1-Tgマウス由来の成熟リンパ腫について、ヒトにおけるT細胞性腫瘍と比較したところ、TH2細胞を特徴付ける遺伝子セットが高発現を示していた。血清中サイトカイン濃度の結果も含めたこれらのデータは、p53-/-VAV1-Tgマウス由来の成熟リンパ腫がTH2細胞の特徴を示す末梢性T細胞リンパ腫の亜型(-GATA3)を模倣していることを示唆しており、-GATA3と同様に、Ccr4タンパク質とGata3タンパク質が発現していることが確認された。

次に、得られた腫瘍細胞のクローン構造を調べるため、腫瘍細胞と正常対照群として尻尾から抽出したDNAを用い、DNAの塩基配列中でタンパク質合成の情報を持つ領域を解析した。その結果、ヒトにおける成人T細胞リンパ腫と末梢性T細胞リンパ腫非定型型と共通する遺伝子変異4つ(Notch1、Ddx3x、Jak1、Tet2)と、体細胞コピー数多型異常5つを同定した。これらの結果に基づき、p53-/-VAV1-Tgマウス由来あるいはp53-/-マウス由来の腫瘍細胞を移植したヌードマウスから得られた腫瘍細胞を二次移植したヌードマウスに対して、Mycの活性を抑制するブロモドメイン阻害剤であるJQ1を投与し、その効果を調べた。すると、JQ1はp53-/-VAV1-Tgマウス由来の腫瘍細胞を移植したマウスの生存期間を延長した一方、p53-/-マウス由来のT細胞性リンパ芽球性リンパ腫を移植したマウスの生存期間は、JQ1を投与しないコントロールマウスと同等だった。このことからMycの活性を抑制することによりp53-/-VAV1-Tgマウス由来の腫瘍細胞のみ発生を抑えることができ、p53-/-VAV1-Tgマウス由来の腫瘍細胞では、VAV1変異体の発現によるMyc活性への影響が腫瘍発症に関与していることがわかった。

MYC阻害剤やモガムリズマブなどによる悪性リンパ腫の新規治療法の開発に期待

一般に予後が悪いとされる末梢性T細胞リンパ腫において、その亜型PTCL-GATA3に分類されるサブグループはさらに予後が悪く、MYC遺伝子の高発現が特徴で、しばしばMYCの増幅を伴う複雑なゲノム異常を示す。今回の研究では、VAV1変異体の発現によって、血清中サイトカイン濃度、腫瘍細胞における遺伝子プロファイルに基づいてPTCL-GATA3に類似した腫瘍細胞を発症しており、さらにその腫瘍細胞はMycの高発現も確認された。また、CCR4タンパク質の発現が高いことも示唆され、抗CCR4抗体薬剤()が治療に有効である可能性が示された。これらの知見は、MYC阻害剤やモガムリズマブなどを用いた悪性リンパ腫の新規治療法の開発に応用できると考えられると、研究グループは述べている。

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