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COVID-19肺炎のCT画像をAI解析するためのプラットフォームを開発-NIIほか

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2020年09月30日 PM12:45

感度の高いCT画像を用いた診断支援と客観的評価手法の確立が求められている

(NII)は9月28日、新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)のCT画像をAI解析するためのプラットフォームを開発したと発表した。これは、NIIが名古屋大学、、日本医学放射線学会などと共同で行ったもの。


画像はリリースより

2019年末ごろに発生した新型コロナウイルス感染症()は急速に世界に広まり、多数の患者が発生している。2020年9月下旬における世界の累計感染者数は約 3200万人、死亡者数は約98万人となっている。日本の累計感染者数は約8万人、死亡者数は約1,500人で、さらに増加を続けている。COVID-19患者に対し適切な治療を行い、他者への感染を防ぐ上で、正確な診断方法が必要とされている。COVID-19の検査ではRT-PCR(reverse transcriptase polymerase chain reaction)が多く用いられるが、そのSensitivity(感度)は42%~71%と低い値を示す。これに対し、CT画像によるCOVID-19検査の感度は97%と高い。日本は人口当たりのCT撮影装置保有数が高いため、COVID-19検査においてCT画像を活用できると考えられる。CT画像を用いた医師の診断を支援し、判断の定量化を目指す上で、コンピューターにより肺の状態を客観的に判断する評価手法の確立が求められている。

1億6000万枚を超える匿名化CT画像を活用しプラットフォームを開発・整備

今回、研究グループは、COVID-19 肺炎のCT 画像を迅速にAI解析するプラットフォームを開発・整備した。このプラットフォーム開発は、主に「COVID-19肺炎CT画像を機械学習で効率良く選別する手法」「放射線医による判定とPCR検査結果が付帯した高品質学習データの整備」の2つの技術開発から成っている。このプラットフォーム開発には、NIIが中心となって構築・運営している医療画像ビッグデータクラウド基盤を活用している。このクラウド基盤には、過去2年間に日本医学放射線学会を通じて全国の病院から収集された、1億6000万枚を超える匿名化したCT画像が蓄積されている。

まず、これらのCT画像からCOVID-19パンデミック以前と以後の肺炎症例を機械学習によって選別する手法を開発。この手法を適用した結果、クラウド基盤から非COVID-19肺炎367症例、COVID-19肺炎320症例(2020年9月8日現在)が抽出された。この抽出されたCT画像にPCR検査結果と放射線医が判定したCOVID-19肺炎典型度のメタデータを付与。こうしてAI機械学習データとして質の高いCOVID-19肺炎CT画像をデータベースとして整備し、AI解析用プラットフォームとして開発した。

プラットフォームを活用してAI開発、高精度でCOVID-19肺炎の典型度を判定

今回開発したAI解析用プラットフォームは、すでにCOVID-19関連の研究に活用されている。名古屋大学の研究グループは、このCOVID-19肺炎CT画像データベースに対してAIを適用し、高い精度でCOVID-19肺炎の典型度を判定できるAIを開発した。このAIは、胸部CT画像を入力すると、そのCT画像のCOVID-19肺炎典型度を自動判定することが可能。COVID-19肺炎の典型例とそうでない例の識別タスクにおいて、現時点で83.3%程度の典型度識別性能を達成している。また、この解析を可能とするために、炎症などの影響でCT画像上の肺の形状が識別困難な場合でも、AIが的確に肺の形状を推定できる手法も開発した。この名古屋大学を中心とした研究成果は、第39回日本医用画像工学会大会で発表された。

継続的な整備・運用で、未知の感染症などの国家的な緊急課題への対処にも有効

医療画像AIの研究開発では、AIを学習させるために、1つの病院だけではなく、さまざまな病院で取得された多様で高品質な画像データ群が極めて重要だ。そのため、今回のCOVID-19肺炎のCT画像データベース構築と解析プラットフォームの開発では、NIIと日本医学放射線学会をはじめとする6つの医療画像に関連する臨床学会が中心となって進め、AMED が支援する研究プロジェクト「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」の「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI画像解析に関する研究」を活用した。

この研究プロジェクトではCOVID-19の顕在化以前から、匿名化等の処理を行ったCT画像を含む医療画像を、国内の病院等からNIIが運営する医療ビッグデータクラウド基盤へ転送し蓄積していた。この転送には、NIIが運営する超高速の学術情報ネットワーク SINET5を利用しており、さらに、画像処理研究者もこのクラウド基盤にSINET5でアクセスして医療画像AIの研究開発を行っている。NIIが中心となり、超高速の通信ネットワークで臨床現場とクラウド基盤、さらに大学等の画像処理研究者をつなぐことで、大容量となる医療画像データ群を超高速で蓄積し迅速に研究活用する仕組みが整った。このクラウド基盤には、CT画像に限ってもすでに1億6000万枚以上の画像が格納されている。また、全国のさまざまな臨床機関から収集されたデータベースとなっているのも特色だ。これらの仕組みにより、同クラウド基盤とSINET5を活用した医療画像AI研究が可能となり、全国の画像処理研究者が集結している。

このクラウド基盤は、COVID-19肺炎に限らない臨床データが悉皆的・網羅的に収集されているもの。今回、この膨大なデータから、COVID-19肺炎のAI解析用プラットフォームを迅速に整備できたことになる。つまり、今回の成果は、ターゲット疾患を定めないで収集した過去のデータから、状況に応じて該当するデータを自動選別し、目的に最適なAI機械学習用データセットを極めて迅速に整備できる技術を開発したことを意味する。このクラウド基盤や超高速ネットワークSINET5を将来も継続して整備・運用すれば、未知の感染症などの国家的な緊急課題への対処にも有効だと確かめられたといえる。(QLifePro編集部)

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