腫瘍組織の線維化メカニズムや阻止方法は不明だった
金沢大学は9月15日、肥満細胞から分泌される炎症誘発性低分子タンパク質のインターロイキン-17A(IL-17A)が、胃がんの腹膜播種における腫瘍組織の線維化の進行に影響を与えていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医薬保健研究域医学系の伏田幸夫准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gastric Cancer」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
胃の粘膜の細胞から発生するがんである胃がんは、徐々に大きくなりながら胃の内側から外側へ向けて進行し、最終的にはおなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種と呼ばれる状態に至ることがある。一度腹膜播種が起こると、がん細胞が転移した臓器が線維化することで、腸閉塞や閉塞性黄疸を引き起こすだけでなく、抗がん剤や免疫担当細胞がターゲットとする腫瘍にまで届かず、期待した効果が得られないという問題がある。しかしながら、どのようなプロセスで線維化が発生し進行していくのか、そのメカニズムは解明されておらず、その阻止方法もわかっていなかった。
播種巣で肥満細胞がIL-17A産生、腹膜中皮細胞にIL-17A添加で線維芽細胞に
今回、研究グループは、播種巣における線維化が高度になるに従い腫瘍に浸潤している肥満細胞数が増加していることから、肥満細胞が腫瘍の線維化に関係があると推定し調査を実施。以前から全身性硬化症やクローン病における臓器の線維化にはIL-17Aが関係していると報告されていたこともあり、播種巣におけるIL-17A産生細胞を調べたところ、肥満細胞そのものであることがわかった。そこで、腹腔内の臓器を覆っている腹膜中皮細胞にIL-17Aを加えたところ、腹膜中皮細胞は線維芽細胞に形質転換し、コラーゲンなどを分泌することが明らかになった。さらにマウスの腹腔内に胃がん細胞株とIL-17Aを同時に投与した場合、腹膜播種巣の数やサイズが増大し、腫瘍内の線維化の程度も増強することも証明された。
今回の研究成果は、肥満細胞のIL-17Aの分泌を防ぐことが、播種巣の線維化を防ぐことにつながることを示唆している。研究グループは、「今後は、マウスを用いた線維化を伴う腹膜播種モデルを作製し、肥満細胞の機能を抑制する抗アレルギー薬などの薬剤によって腫瘍の増殖や線維化を制御することで、胃がん腹膜播種の新しい治療法開発につながることが期待される」と、述べている。
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