医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > アレルギー性気管支肺真菌症、日本の症例に適した新しい診断基準を提唱-東海大ほか

アレルギー性気管支肺真菌症、日本の症例に適した新しい診断基準を提唱-東海大ほか

読了時間:約 2分55秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年09月16日 PM12:30

日本人には従来の診断方法で診断できないABPM患者が多い

東海大学は9月15日、(Allergic bronchopulmonary mycosis、)の新しい診断基準を提唱し、より敏感かつ正確にABPMを診断できることを検証したことを発表した。これは、同大医学部医学科内科学系呼吸器内科学の浅野浩一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

大気中の真菌胞子数は30~2,000cfu/m3とされ、成人の換気量から換算すると、毎日、数百~数万個の真菌胞子を吸入している。健康な人では吸い込んだ真菌粒子は速やかに気道上皮細胞の粘液・繊毛システムや免疫細胞によって排除されるため、呼吸器疾患を生じることはまれだが、ぜんそくなどの気管支・肺疾患や免疫能低下があると、アレルギーから感染症までさまざまな病状が生じる可能性がある。また、水害や家屋の漏水などが起こると、屋内で吸入する真菌粒子の数はさらに100倍以上に増え、それに伴って真菌による呼吸器疾患の発生頻度も増加する。

ABPMは1952年にHinsonらによって報告されたアレルギー性気道疾患。日本では1万5,000人、全世界で500万人の患者がいると推定されている。この疾病は、ぜんそくや嚢胞性線維症患者において、吸入した真菌が気道内の粘液上で繁殖することによりアレルギー応答が起こり、再発を繰り返しながら気管支の破壊が進行するもので、放置すれば肺の線維化から呼吸不全に至ることもある。ABPMは、早期に診断されれば有効な治療法があるが、重症ぜんそくや繰り返す肺炎と診断され、発症から診断まで数年以上かかる例が多く、診断された時点で気管支の破壊が進行しているケースも多く見られる。また、同研究グループが行った全国調査により、日本人には従来の診断方法では診断できないABPM患者が多いことも明らかになっていた。

ABPMと病理診断の79例+臨床診断の179例、対照151例で新診断基準を検証

研究グループは、2013年からABPMの疫学、診断・治療の実態に関する全国調査を実施。その調査から明らかとなったのは、日本のABPMは、衛生状態や環境真菌相が大きく異なる南アジアや、日本ではまれな嚢胞性線維症を背景疾患とする欧米諸国の症例とは大きく臨床的な特徴が異なることだった。また、原因となる真菌も従来から報告されていたアスペルギルスだけでなく、キノコの一種であるスエヒロタケなどもかなりの頻度で見られた。

ABPMの診断には、1977年にRosenbergらが提唱した診断基準が今でも頻用されているが、現状に合わない点が多くなってきたことから2013年に国際医真菌学会から別の診断基準が提唱されている。しかし日本のABPM症例ではいずれの診断基準でも診断が難しいことがしばしばあり、またアスペルギルスによるABPMの診断を想定している従来の診断基準ではその他の真菌によるABPMの診断が困難であるなどの問題点があった。そこで研究グループは新たな診断基準を提唱し、その診断精度を検証する試みを行った。

今回提唱した新しい診断基準は、ぜんそくの既往、血液検査所見、喀痰や気管支分泌物の所見、胸部CT所見など10項目からなり、そのうち6項目以上を満たせばABPMの診断確定、5項目であればABPM疑いとするもの。検証には病理学的にABPMと診断された79例、日本の呼吸器・アレルギー専門施設の医師が臨床的にABPMと診断した179例を用い、対照群としてはABPMと間違えられやすいぜんそくや好酸球性肺炎、慢性肺アスペルギルス症(アスペルギルスによる感染症)151例を用いた。

特異度90%を維持しつつ感度94~96%と、極めて高い精度で診断可能

古典的なRosenbergらの診断基準は、特異度はほぼ100%であるものの感度が50%以下と低く、国際医真菌学会の診断基準では感度は80%前後まで向上するものの特異度は90%以下だった。これに対して、今回提唱した新しい診断基準では特異度90%を維持しつつ感度94~96%と、極めて高い精度でABPMを診断できた。また、スエヒロタケ等のアスペルギルス以外の真菌によるABPM症例での診断感度も90.5%と、Rosenbergらの診断基準(14.3%)、国際医真菌学会の診断基準(47.6%)と比べて顕著に高かった。

新しい診断基準に必要な検査は日本国内の医療機関であればどこでも実施可能。研究グループは、「この診断基準の普及によってABPMの診断の遅れが減少し、気管支・肺の破壊が進行する前に、適切な治療が提供されるようになることが期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 加齢による認知機能低下、ミノサイクリンで予防の可能性-都医学研ほか
  • EBV感染、CAEBV対象ルキソリチニブの医師主導治験で22%完全奏効-科学大ほか
  • 若年層のHTLV-1性感染症例、短い潜伏期間で眼疾患発症-科学大ほか
  • ロボット手術による直腸がん手術、射精・性交機能に対し有益と判明-横浜市大
  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大