■供給計画に影響の可能性
英アストラゼネカは、新型コロナウイルス感染症ワクチン候補「AZD1222」について、日本を含む全世界で実施中の治験を一時中断することを決定した。英国の第III相試験に参加した健康成人1例から因果関係不明の副反応が報告されたため。病名や重篤度などは明らかにされていない。安全性を理由に新型コロナウイルス感染症ワクチンの治験が一時中断するのは初めて。ワクチンとの因果関係が判明した場合には、AZと国内供給で基本合意した政府の計画にも影響を与える可能性がある。
「AZD1222」は、AZと英オックスフォード大学が連携して世界各国で開発を進めている新型コロナウイルス感染症ワクチン。英国の治験に参加した被験者で接種後に何らかの副反応が認められた。
これを受けAZは、世界全地域で実施している治験についてワクチン接種と新たな被験者の組み入れを中止した。現在、米国やブラジル、南アフリカなどで第III相試験を実施しており、国内でも8月末から18歳以上の被験者250人を対象とした第I/II相試験が開始されている。
厚生労働省は、9日にAZからの報告で事実を把握。有害事象の具体的内容は調査中で、結果が判明した後に治験を再開すべきか判断する。
「AZD1222」の治験中断は、海外製ワクチンに依存する国内の安定供給政策にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。政府は来年前半までに全国民に対し、新型コロナウイルス感染症ワクチンを供給できるよう海外ワクチンメーカーとの交渉を進め、AZとは8月、開発に成功した場合には来年3月までに3000万回分、全体量として1億2000万回分の供給を受けることで基本合意していた。
厚労省は、AZの治験中断が計画に与える影響について、「治験は通常のプロセスで行われており、(影響が分かっていない)現時点では計画への影響はないと考えている」との見解を示した。
AZは、メガファーマが鎬を削る新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発で先頭集団を走る1社と目されていた。「AZD1222」は弱毒化されたチンパンジー由来のかぜのアデノウイルスに、新型コロナウイルススパイク蛋白質の遺伝物質を含ませた構造が特徴。第I/II相試験は、初期段階の治験では比較的多い1077人の健康成人を対象に、ワクチンの免疫応答や安全性を確認していた。これまで報告されている有害事象は、注射部位の痛みや軽度から中程度の頭痛、悪寒、発熱、倦怠感などで重篤な副反応は見られなかったという。
第III相試験の結果は、今年後半に公表し、世界全体で被験者を最大5万人まで拡大する予定だったが、開発計画の見直しは必至の情勢だ。
新型コロナウイルス感染症ワクチンをめぐっては、8月の日本感染症学会学術講演会でも、国立感染症研究所の松山州徳氏が「現在第III相試験中のワクチンはいずれも副反応の懸念がある」と監視の必要性を訴えていた。先行する新型コロナウイルス感染症ワクチンが躓いたことで、最速承認を目指すAZ以外の企業にも慎重な開発戦略が求められそうだ。