GVHD発症に伴う造血器腫瘍再発抑制効果として評価されている「GVT効果」
東京大学医科学研究所は9月7日、同種造血細胞移植における骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果について明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所附属病院の小沼貴晶助教、日本造血細胞移植データセンターの熱田由子センター長らを含む日本造血細胞移植学会の成人骨髄異形成症候群ワーキンググループによるもの。研究成果は、「Clinical Cancer Research, a journal of the American Association for Cancer Research」(オンライン版)に掲載されている。
画像はリリースより
造血器腫瘍に対する同種造血細胞移植は、最も有効ながん免疫療法の一つとされており、その理由は同種免疫反応に伴う移植片対腫瘍(GVT)効果によると考えられている。移植片対腫瘍効果は、移植片対宿主病(GVHD)の発症に伴う造血器腫瘍の再発抑制効果として評価されているが、その効果は造血器疾患の種類や病期により異なると考えられている。
骨髄異形成症候群(MDS)は、難治性の血球減少と血球の形態異常を特徴とする骨髄不全症候群の一つであり、同種造血細胞移植のみが唯一の根治的治療法と考えられている。これまで、骨髄異形成症候群に対する移植片対腫瘍効果に関しては、急性骨髄性白血病とともに評価されていることが多く、骨髄異形成症候群のみに対する移植片対腫瘍(Graft-versus-MDS)効果の存在や有効な集団は明らかとされていなかった。
日本の登録データを用いてMDS症例限定でのGVT効果を大規模に実証
今回、研究グループは、日本造血細胞移植学会・日本造血細胞移植データセンターの移植登録一元管理プログラムによる登録データを用いて、初回同種造血細胞移植を受けた骨髄異形成症候群3,119例を対象として、移植片対宿主病の発症が再発率や生存率に影響を与えるかどうか後方視的解析を実施した。
年齢中央値54歳、移植時病期は、低リスク群1,193例、高リスク群1,926例だった。ドナーとしては、HLA一致血縁ドナー826例、HLA一致非血縁ドナー1,222例、非血縁臍帯血648例が多く用いられた。移植前処置は、骨髄破壊的前処置が1,785例(58%)、移植片対宿主病の予防法として、カルシニューリン阻害剤とメソトレキサートが2,633例(84%)だった。生存者の観察期間中央値55か月において、移植後5年時点における生存率は、低リスク群では63%、高リスク群では48%だった。移植後5年時点における再発率は、低リスク群では15%、高リスク群では29%だった。
腫瘍量の多い高リスク群で、生存率の改善に寄与するGVT効果
時間依存性共変量を用いた多変量解析において、グレードIII–IVの急性移植片対宿主病および限局型および全身型の慢性移植片対宿主病の発症が、高リスク群において、再発抑制効果を認めた。しかし、同時にグレードIII–IVの急性移植片対宿主病及び全身型の慢性移植片対宿主病の発症は、非再発死亡率の増加に影響した。そのため、限局型の慢性移植片対宿主病の発症のみが、再発を抑制することで生存率の改善に貢献していることがわかった。この効果は低リスク群で認められなかった。
高リスク群で認められた移植片対腫瘍効果は、HLA一致血縁ドナーや骨髄破壊的前処置を受けた集団でも同様に認められた。また、臍帯血移植では、グレードI–IIの急性移植片対宿主病の発症が、再発率と非再発死亡率を抑制することで、生存率の改善に貢献していることがわかった。
移植前処置、移植片対宿主病予防法、ドナーの多様化により、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植は拡大している。研究グループは、「今回の研究で得られた移植片対腫瘍効果の実証および有効な集団を同定したことは、骨髄異形成症候群に対する同種造血細胞移植において、さらなる治療成績向上やがん免疫療法の発展に役立つことが期待される」と、述べている。
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