効率よく膵島細胞を作製、糖尿病マウス治療に成功
熊本大学は12月16日、同大の坂野大介助教、粂昭苑教授らの研究グループが、ES細胞から成体と同等の能力をもつ膵臓の細胞を作製することに成功し、糖尿病モデルマウスに移植・治療に成功したと発表した。この研究成果は12月15日、「Nature Chemical biology」オンライン版に掲載された。
重度の糖尿病患者には、膵島細胞の移植が有効とされているが、ドナー不足が大きな問題となっている。効率よく膵島細胞を作製することができれば、この問題点を解消することができると期待されている。
これまでの研究では、ES細胞やiPS細胞から膵前駆細胞をある程度作ることに成功しているものの、内分泌前駆細胞・β細胞への分化過程に関しては効率が低く、誘導されたβ細胞のインスリン分泌機能は弱いものであったという。
(画像はプレスリリースより)
内分泌細胞への分化を促進するトランスポーターを同定
今回の研究では、細胞質内に存在するモノアミンを小胞に取り込むトランスポーターの一種Vesicular monoamine transporter 2(VMAT2)を阻害することで、ES細胞から膵β細胞への分化誘導効率が高まることを世界で初めて明らかにしている。
研究グループでは、まず1,120個の低分子化合物を含むライブラリーのなかから、ES細胞から膵β細胞への分化誘導効率を上昇させる、また膵β細胞が糖濃度に応じてインスリンを分泌する能力を獲得することを促進させる、2つの化合物を発見。VMAT2の阻害剤に膵臓のβ細胞を増やす効果があることを見出したという。
VMAT2は細胞内小胞に存在するモノアミン量を調節する因子であり、モノアミンにβ細胞の分化を阻害する機能があると確認されたことから、VMAT2-モノアミンは発生過程で分化成熟するβ細胞数を調節する役割をもっているのではないかと推察されるという。
さらに今回の研究では、化合物の細胞透過性cAMPが、膵内分泌前駆細胞から成熟したインスリン分泌能をもつ膵β細胞に分化することを促進させる作用をもつことも確認された。この2つの化合物を添加して得られた膵β細胞は、インスリン含量、インスリン分泌能において、成体膵島とほぼ同等の能力を持つそうだ。
糖尿病治療に新たな光
こうして作製された膵β細胞を、非肥満性の糖尿病モデルマウスである「AKITAマウス」に移植したところ、有意な改善がみられたという。今後安全性の確認などを進め、ヒトへの実用化を目指していく方針だ。
今回、存在が明らかとなった膵臓の発生におけるモノアミンによる分化調節に関しては、マウスにおいてもヒトにおいても、そのメカニズムはいまだ不明点が多い。研究チームでは、今回得られた知見を、ヒトiPS細胞を用いた分化誘導研究などにいかに応用していくかが今後の課題であるとしており、糖尿病治療に関する新たな研究の加速も期待されている。(紫音 裕)
▼外部リンク
熊本大学 プレスリリース
http://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/
VMAT2 identified as a regulator of late-stage β-cell differentiation
http://www.nature.com/nchembio/journal/vaop/ncurrent/