早期診断体制が整備されている長野県岡谷市で、ASDの累積発生率を調査
信州大学は7月31日、1歳半健診が自閉スペクトラム症(ASD)の早期診断に有効であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部子どものこころの発達医学教室・精神医学教室の篠山大明准教授、本田秀夫教授、鷲塚伸介教授、および衛生学公衆衛生学教室の野見山哲生教授らの研究グループによるもの。長野県岡谷市および信濃医療福祉センターの協力を得て実施した。研究成果は、「Journal of Autism and Developmental Disorders」にオンライン掲載されている。
最近20年間において、自閉スペクトラム症と診断される人の割合が世界的に増加している。2014年の米国の調査では、8歳児での有病率が1.68%であったと報告された。近年の有病率増加の理由としては、スクリーニング精度の向上がその1つとして挙げられる。自閉スペクトラム症の早期発見と早期介入は予後改善のために重要だが、一般的なスクリーニングツールを利用した場合であっても、2歳未満で早期発見を行うことは困難であると考えられている。
岡谷市では、1歳半健診における自閉スペクトラム症の早期発見の精度向上に努めており、保健師が各児に対し丁寧なスクリーニングを実施。さらに、自閉スペクトラム症の疑いがある児は信濃医療福祉センターの受診につなげ、早期に診断し支援を行う体制が確立している。
今回の研究では、早期診断の体制が整備されている岡谷市で、自閉スペクトラム症の累積発生率の調査を実施。さらに、後に自閉スペクトラム症と診断された児において1歳半健診時に見られた特徴について調べた。
ASD児では1歳半健診時の微細・粗大運動能力や社会的コミュニケーション能力が低い傾向
2009年4月2日~2012年4月1日に出生し、岡谷市で1歳半健診を受けた1,067人を対象とし、信濃医療福祉センターの医療情報を調査したところ、1,067名のうち33人(男児22人、女児11人)が小学校入学までに自閉スペクトラム症と診断されていた(累積発生率は3.1%[男児4.3%、女児2.0%])。自閉スペクトラム症と診断された33人と、診断されなかった1,034人を比較した結果、自閉スペクトラム症と診断された児の方が、1歳半健診時の微細・粗大運動能力および社会的コミュニケーション能力が低い傾向にあることが明らかになった。
今回の研究で報告された累積発生率は、一般人口における医療的診断に基づく自閉スペクトラム症の発生率としては、今までの研究で報告された中で最も高い値だったという。この結果から、1歳半健診において丁寧なスクリーニング体制を整えることによって、高い感度での診断が可能であることが示唆された。さらに、自閉スペクトラム症の児はすでに1歳半の時点で、微細・粗大運動能力および社会的コミュニケーション能力の発達が遅れていることが示され、これらは自閉スペクトラム症を早期に予測する因子であると考えられる。研究グループは、今後の調査の継続により、乳幼児健診を活用した自閉スペクトラム症の早期診断システムの開発が期待される、と述べている。
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・信州大学 プレスリリース