IL6による刺激が骨髄腫細胞にどのような変化を与えるのかを遺伝子レベルで調査
愛知医科大学は7月30日、多発性骨髄腫(以下、骨髄腫)の悪性化に関わる分子をつきとめたと発表した。この研究は、同大医学部生化学講座の太田明伸講師、細川好孝教授ら、内科学講座(血液内科)の花村一朗教授、高見昭良教授、病理学講座、および北海道大学の研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Journal of Interferon and Cytokine Research」オンライン版に掲載されている。
骨髄腫は、腫瘍が骨髄に多発する疾患。骨髄は骨の内部を満たす柔らかい組織であり、血液中に存在する赤血球、白血球の元となる未熟な細胞が多く含まれている。ほとんどの骨髄腫は、骨髄の中で発生して比較的ゆっくりと進行していく。これまで、病気の進行にともないさまざまな遺伝子の異常が蓄積することは報告されていたが、病気の悪性化に関わる遺伝子異常についてはいまだに理解が進んでいない。
研究グループは、骨髄腫の悪性化に関わる仕組みの解明に関する研究をおこなってきた。今回の研究では、骨髄腫細胞の増加を促すタンパク質「インターロイキン6(IL6)」の作用に着目し、IL6による刺激が骨髄腫細胞にどのような変化を与えるのかを遺伝子レベルで調べた。
画像はリリースより
PBK阻害剤投与で、腫瘍形成後マウスの腫瘍増加を顕著に抑制
2万1,278個の遺伝子を解析した結果、刺激の前後に有意に増加する遺伝子を同定した。そこで、同定した遺伝子の増加が、骨髄腫患者の生命予後に影響を及ぼすのかどうかを公共のデータと統計学的な手法を用いて解析。その結果、PDZ binding kinase(PBK)遺伝子の発現が高いほど生存率が低くなる傾向を見出した。
続いて、PBKの発現量が骨髄腫の進展に関連するのかどうかを調べるために、ゲノム編集法を用いてPBK遺伝子を破壊したところ、ヒト骨髄腫の腫瘍形成能力が破壊前と比べて著しく低下した。また、PBKタンパク質の活性を抑制する阻害剤を腫瘍形成後のマウスに投与したところ、阻害剤投与によって腫瘍の増加は顕著に抑制されたという。以上の結果から、PBKは骨髄腫の進行または悪性化に深く関わり、PBKをターゲットにした治療は骨髄腫の新しい治療法の開発につながる可能性が示された。
今回の研究成果から、多発性骨髄腫の進行に関わる異常として「PBK発現の増加」が見出された。がん治療の分野では、慢性骨髄性白血病に対する治療薬イマチニブのように遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の有効性が実証されている。今後は、PBKの量的変化を簡便に測定する診断法やPBKの酵素活性をより正確に阻害できる分子標的薬の開発につなげて、治療効果が高く副作用の少ない新しい骨髄腫治療法の確立へと道を開くことが期待される、と研究グループは述べている。
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