受精直後の転写プログラム
東京大学分子細胞生物学研究所は12月15日、同研究所附属エピゲノム疾患研究センターの白髭克彦教授、同大医科学研究所附属ヒトゲノム解析センターの朴聖俊特任研究員らが受精直後の転写産物解析を実施し、大規模転写データベースを構築したと発表。また、精子がこの転写プログラムに対して果たす役割について明らかにしたと発表した。
(画像はプレスリリースより)
大規模転写データベースを構築
受精直後に起動する転写プログラムが開始される仕組みを解明することは、多能性獲得やiPS細胞の確立に対する理解のためだけでなく、不妊治療や再生医療などの分野における発展のためにも非常に重要である。しかし、これまではほ乳類から大量に質の高い卵子を採取・調整することの難しさから、今回のような大規模かつ包括的な解析は行われてこなかったという。
今回、研究グループは高品質なマウス卵子を大量に採取する方法を確立。140,000個以上の細胞を用いて受精-発生初期の全転写産物の解析を行い、データベースに整備したとしている。データベースは、既存研究の10倍以上のスケールとなるデータを元に構築されており、受精後に発生を開始するための転写プログラムのより詳細な解析を可能にしたという。
卵子と精子によるパ・ド・ドゥ
研究グループは今回の大規模な解析によって、精子と卵子が出会って初めて発現する転写産物をコードとする遺伝子が817個あることを突き止めた。これらの遺伝子の転写には108個の転写因子が必要で、そのうちの5個の遺伝子(Nkx2-5、Myod1、Sox18、Foxd1、Runx1)は受精時にのみ発現し、この発現のカギは精子が握っていることを明らかにしたという。
これまで、精子は雄のゲノムの単なる運び屋だと捉えられていたが、今回の成果は精子が転写プログラムにおけるコーディネーターとして重要な役割を担っていることを示している。卵子と精子は初期胚発生においてそれぞれが必須の役割を担っており、研究グループでは、まるでバレエにおける男女二人による踊り「Pas de deux(パ・ド・ドゥ)」の様相を呈しているようだとしている。(鈴木ミホ)
▼外部リンク
東京大学 プレスリリース
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