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オキシトシンがアルツハイマー型認知症の神経活性障害を改善する可能性-東京理科大

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2020年07月13日 AM11:45

オキシトシンと、Aβによって誘発される認知機能障害の関係を検討

東京理科大学は7月10日、オキシトシンがアルツハイマー型認知症に深く関与するアミロイドベータ(Aβ)による海馬ニューロンの神経活性障害を改善すること、さらに、想定される分子メカニズムについて発表した。これは同大薬学部薬学科の斎藤顕宜教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載されている。

アルツハイマー型認知症においては脳が萎縮しており、その原因物質としてAβが特定されている。Aβはアミロイド前駆体タンパク質の代謝産物として合成されるが、蓄積することで不溶性アミロイド原繊維の形成が引き金となり、発病に至る。実際、Aβを曝露すると学習と長期記憶に重要な長期増強(LTP)や、細胞外シグナル調節キナーゼ()/サイクリックAMP応答配列結合タンパク質()のリン酸化が脳の海馬で抑制されることが確認されている。

一方で、オキシトシンは脳の視床下部室傍核で合成されるペプチドホルモンであり、主に子宮収縮や乳汁分泌などの血中に分泌されるホルモンとしての作用がよく知られている。加えて、近年ではオキシトシンは動物の認知機能や学習機能にも影響を与えることが報告されている。さらに、オキシトシンを分泌する神経の多くが認知機能に重要な役割を果たす海馬に投射している。しかし、オキシトシンと認知機能および学習機能との関係は十分検討が進んでいない。そこで研究グループは、オキシトシンとAβによって誘発される認知機能障害の関係性について調べた。

Aβにより誘発される海馬の神経活性障害は、オキシトシン添加で回復

研究グループは、マウスの海馬のスライス標本にAβを曝露し、電気生理的手法を用いて海馬の神経活性(興奮性シナプス後場電位)の測定を行ったところ、LTPが有意に障害されていることがわかった。しかし、そこにオキシトシンを加えるとLTPの障害は回復し、Aβもオキシトシンも加えられていない対照群の場合とほぼ同じLTP活性に戻った。

オキシトシン受容体、ERK活性化およびCa2+透過性AMPA受容体が作用機序に関与

次に、Aβにオキシトシンを加えた際のLTP活性の回復効果の背景にある分子機構について検証。まず、オキシトシン受容体の拮抗薬(L-368,899)を加えたところ、オキシトシン添加によるLTPの回復効果は見られなかった。一方で、ERKのリン酸化はLTPに重要であり、オキシトシンはERK/CREBのリン酸化を促進することが過去の研究で報告されている。そこで、ERKのリン酸化がAβ誘発性LTP障害の回復に関わっているか調べるため、ERKリン酸化障害剤(U0126)を加えたところ、同様にオキシトシンによるLTPの回復が見られなかった。

また、オキシトシンは、内側前頭前皮質において記憶と学習に重要なAMPA受容体の遺伝子発現を促進することが示唆されていることから、オキシトシンとCa2+透過性AMPA受容体の関係性についても調べた。Ca2+透過性AMPA受容体拮抗薬(NASPM)を加えたところ、Aβ誘発性LTP障害のオキシトシンによる改善効果は抑制された。

以上のことから、オキシトシンがアルツハイマー病の認知機能に関与しており、その分子メカニズムには、オキシトシン受容体、シナプス可塑性に重要な役割を担うERK活性化およびCa2+透過性AMPA受容体が関与していることが示唆された。「オキシトシンがアルツハイマー型認知症の治療薬候補ターゲットとなることを示唆した世界初の報告。新しい作用機序による認知症治療薬を創出することにつながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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