WHO2017の定義に合致したCAEBVの臨床像と治療の実態を明らかに
聖マリアンナ医科大学は6月30日、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)について、2017年改訂のWHO造血器腫瘍分類に新たに定義され、日本の診断基準が発表されてから初めて、かつこれまでで最大の全国調査を実施したと発表した。これは、同大血液・腫瘍内科、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液疾患治療開発学の新井文子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Advances」のオンライン版に掲載されている。
CAEBVは、強い炎症が持続し、かつEBウイルス(EBV)に感染したT細胞、NK細胞が腫瘍化していく進行性の希少疾患。これまでの報告では日本をはじめとする東アジアに集中し、欧米からの報告はほとんどなかった。また、まれな疾患であるため、その臨床像は不明な点が多く、かつ、腫瘍でありながら腫瘤を形成することが少ないことから病理診断も難しいとされてきた。
しかし、2017年にWHOによる造血器腫瘍分類(WHO2017)が約10年ぶりに改訂され、その中でCAEBVがEBV陽性T、NK細胞腫瘍として明記された。このことにより、CAEBVは世界の血液内科医、病理医、研究者へ広く周知され始めた。WHO2017では、CAEBVについて全身症状を認める全身型(systemic)CAEBV(sCAEBV)と、皮膚に症状が限局している皮膚型(cutaneous)CAEBVに分類されている。また、日本ではWHO2017で取り入れられた病気の定義に基づき、かつ、病理診断が困難であることもふまえ、診断基準を厚生労働省の研究班が作成している。それまでCAEBVについては、EBVのT細胞、もしくはNK細胞への感染を確認せずに診断が行われることも少なくなかった。
そこで研究グループは、WHO2017の定義に合致したsCAEBV(CAEBVの多くはこちらに該当)について、臨床像と治療の実態を明らかにする目的で、全国調査を実施した。
小児発症例と高齢発症例では臨床像・予後に差、現在の化学療法では効果不十分と判明
全国の血液内科および小児科1,089施設にアンケートを送付したところ、100例の患者データが集まった。年齢構成は1~78歳まで(中央値21歳)で、半数以上が成人例だった。症例を9歳未満の小児発症例、10~45歳の思春期/成人発症例、45歳以上の高齢発症例の3群に分けて比較すると、9歳未満の小児発症例は78%が男性であった一方、45歳より高齢での発症例は85%が女性だった。思春期/成人発症例には性差は見られなかった。小児発症例の予後は他と比較し良好だった。病理検査により診断された例は15%だったが、血液を用いてEBVのT細胞、NK細胞への感染を明らかにすることで診断された例は85%だった。
治療については、同種造血幹細胞移植(以下、移植)が行われた症例では、3年生存率が、移植のみでは85%、化学療法後、移植を行った例では65%と、長期生存がみられた。一方で、移植が行えず、化学療法のみで治療を行った症例の予後は、治療開始後の3年生存率は0%と厳しいものだった。また、ステロイド、免疫抑制剤、化学療法などの薬物治療によってEBウイルスに感染したT細胞、NK細胞を除去できた症例はなかった。
調査の結果から、有効な治療薬開発の必要性が明らかに
今回の研究は、sCAEBVに対し、2017年に改訂されたWHO造血器腫瘍分類の定義に基づいて、日本で全国調査を行ったもので、これまで報告された中では最新かつ最大のもの。同調査で特筆すべきは、小児発症例と高齢発症例では異なる病像・病態を示したという点だ。残念ながら既存の化学療法のみでは根治に至らなかったが、移植実施例では生存率が改善されることを、新たに明らかにした。また、血液を用いた診断が広く行われる一方で、病理検査による診断が困難であることも明らかになった。
研究グループは、「CAEBVは、日本のみならず海外でも大きく注目されている。今回の結果は、発症機構の解明に寄与するとともに、診断法の開発、そして何よりも、有効な治療薬の開発がいかに必要であるか、厳しい現実を改めて私たちに突きつける、重いものであると考える」と、述べている。