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ヒト特異的遺伝子「ARHGAP11B」をサルの脳に発現させると脳が拡大してシワができることを証明-慶大ほか

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2020年06月26日 PM12:45

ヒトの大脳新皮質の進化に関わる遺伝子を、霊長類での機能解析で証明する

慶應義塾大学は6月25日、ヒトに特異的な脳の拡大の機序を解明したと発表した。この研究は、マックスプランク分子細胞生物学遺伝学研究所のウィーランド・フットナー教授、ミヒャエル・ハイデ研究員、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授(兼 理化学研究所脳神経科学研究センター〈CBS〉マーモセット神経構造研究チーム チームリーダー)、村山綾子特任助教(兼CBS客員研究員および実験動物中央研究所兼任研究員)、実験動物中央研究所の佐々木えりか部長、黒滝陽子室長、篠原晴香研究員の研究グループによるもの。研究成果は、「Science」に掲載されている。


画像はリリースより

知覚、記憶、言語、思考などといった高次の脳機能をつかさどるヒトの大脳新皮質は、最も近い近縁種であるチンパンジーの約3倍もの大きさがあり、その機能も特に発達している。進化の過程で大きくなった脳が頭蓋骨の限られた空間に収まるために、脳は折りたたまれ、シワができたと考えられている。では、ヒトはどのようにして大きな新皮質と多くのシワを獲得してきたのだろうか。2010年、ウィーランド・フットナー教授の研究グループは、脳新皮質の拡大には、脳を構成している神経細胞を生み出す神経幹細胞と並び、bRG細胞が大きく寄与していることを見出した。そこで、ヒトbRG細胞に特異的に発現している遺伝子を探索し、2015年にARHGAP11B遺伝子を同定。このヒト特異的遺伝子ARHGAP11Bをマウス胎仔脳に過剰に発現させると、bRG細胞の数が増えて脳が拡大し、通常は滑脳であるマウスの脳にもシワのような凹凸ができることを発見した。さらに、もともと脳にシワがあるフェレットでも大脳新皮質が拡大してシワが増えることがわかった。

ヒトにしかないARHGAP11B遺伝子は、多くの動物種がもっているRHGAP11A遺伝子の部分的重複によって生じたとされている。この遺伝子重複は約500万年前、チンパンジーに至る進化系統と、ネアンデルタール人からヒトに至る進化系統が分岐した後に起こった。そこからさらに長い年月を経て今から150万年~50万年前までの間に、ARHGAP11B遺伝子はたった1か所の変異を生じた。その結果、ARHGAP11BはbRG細胞を増加させる能力、つまり大脳新皮質を拡大する機能を獲得したとフットナー教授らのグループは推定した。しかし、ARHGAP11Bがヒトの大脳新皮質の進化過程に関与することを証明するためには、霊長類でのARHGAP11Bの機能解析が求められていた。

マーモセット脳に発現で脳が拡大しシワ形成、ヒト特有の脳機能の解明に期待

今回、研究グループは、まず、ARHGAP11B遺伝子を、本来健常人で発現している生理的に近い量で発現するARHGAP11B遺伝子導入マーモセットを作製。脳の発生過程で、bRG細胞が豊富に存在して飛躍的に大脳新皮質が拡大する時期に注目し、胎生101日齢のコモンマーモセットの脳を解析した。解剖学的解析の結果、本来マーモセットではシワが存在しないはずの場所にも脳の凹凸が出現。野生型と比較してGI指数(脳の凹凸を示す指数)が約1.1倍に増高していた。次に、脳を非常に薄くスライスし、さまざまなタンパク質を各々特異的なマーカーでラベルして定量的な解析を実施。すると、ARHGAP11B遺伝子導入マーモセットでは野生型に比べてbRG細胞の数が約4倍増加し、bRG細胞が多く存在する脳室下帯外側の厚さも約3.5倍厚くなっていることがわかった。さらにbRGの増加に伴って、どこの神経細胞が増加しているのかを調べたところ、霊長類の進化に伴って増加する神経細胞は脳表に近い場所(皮質板浅層)に多く存在するが、ARHGAP11B遺伝子導入マーモセットではまさにそこにある神経細胞の数が約20%増加していた。以上、今回の研究によって、ヒトがチンパンジーから分岐したのちの大脳新皮質の拡大はARHGAP11Bによって引き起こされたことが、非ヒト霊長類モデルを用いて証明された。

大脳新皮質は、大脳皮質構造のうち進化的に新しい部分であり、知覚、記憶、思考、随意運動、言語などをつかさどっている。ヒト特異的な遺伝子であるARHGAP11Bによってもたらされた新皮質の拡大は、ヒトに特徴的な新皮質の機能の獲得に関連している可能性が高いと考えられ、今後、ヒトだけが獲得し得た新皮質の機能の解明につながるかもしれないと、研究グループはみている。(QLifePro編集部)

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