国ごとに大きく異なる腸内細菌叢を統合解析するメタ解析の手法を構築
名古屋大学は6月24日、日本・米国・フィンランド・ロシア・ドイツのパーキンソン病患者の腸内細菌叢のメタ解析を行い、ムチン分解菌であるAkkermansiaが共通して増加し、短鎖脂肪酸産生菌であるFaecalibacteriumとRoseburiaが減少していることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科神経遺伝情報学の大野欽司教授、医学系研究科医療技術学専攻病態解析学の平山正昭准教授、神経内科学の勝野雅央教授、西脇寛博士課程大学院生、岩手医科大学脳神経内科・老年科の前田哲也教授、岡山脳神経内科クリニックの柏原健一院長、福岡大学医学部脳神経内科の坪井義夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Movement Disorderse」に掲載されている。
画像はリリースより
パーキンソン病は、中脳の黒質にあるドパミン産生細胞にレビー小体と呼ばれるα-シヌクレイン凝集体が異常凝集することによって引き起こされる。α-シヌクレイン凝集体は、腸管神経叢から始まり中脳黒質まで上行する可能性が示されてきた。α-シヌクレイン凝集体はプリオンのように正常のα-シヌクレインを異常凝集させて異常を伝播させることが明らかにされている。
パーキンソン病患者ではα-シヌクレイン凝集体が迷走神経背側核から中脳黒質に向かって上行することが示されてきた。また、便秘、レム睡眠行動障害、うつがパーキンソン病の運動症状が始まるそれぞれ20年、10年、5年前から起こることが知られており、これはα-シヌクレイン凝集体が迷走神経背側核から青斑核に向かって上行する現象と一致している。加えて、パーキンソン病患者の腸管神経叢には高い頻度でα-シヌクレイン凝集体が蓄積していることが知られている。また、パーキンソン病患者では腸管透過性が上昇することを同研究グループとドイツのグループが以前に報告していた。
今までに17報のパーキンソン病患者の腸内細菌叢研究が報告されてきた。しかし、健常者においても国による腸内細菌叢の違いが大きく、国を超えてパーキンソン病患者で共通で変わる菌を特定することは困難だった。そこで研究グループは、過去最多のパーキンソン病患者の協力を得て、腸内細菌叢解析を行った。次に、国を超えて腸内細菌叢を統合解析するメタ解析手法を構築し、過去に報告された米国・フィンランド・ロシア・ドイツの4か国のパーキンソン病患者の腸内細菌叢と合わせてメタ解析を行った。
ムチン分解菌の増加と短鎖脂肪酸産生菌の減少が、パーキンソン病の発症や進行につながる可能性
腸内細菌叢に影響を与える因子(BMI、便秘、性別、年齢、薬剤)の影響を排除したところ、5か国のパーキンソン病患者の腸内細菌叢で共通してAkkermansia、Catabacterが増加し、Roseburia、Faecalibacterium、Lachnospiraceae ND3007グループが減少していることを明らかにした。メタ解析に含めることができなかった12報の研究結果を調べたところ、Akkermansiaの増加、Roseburia、Faecalibacteriumの減少が多くの研究で認められた。また、腸内細菌叢の代謝パスウェイを解析するKOSEA(KEGG orthology set enrichment analysis)法を開発し、パスウェイ解析を行ったところ、腸内細菌叢による短鎖脂肪酸代謝がパーキンソン病で変化していることがわかった。これらの解析により、ムチン分解菌であるAkkermansiaの増加と短鎖脂肪酸産生菌であるRoseburiaとFaecalibacteriumの減少がパーキンソン病患者において国を超えて認められることを明らかにした。
Akkermansiaの増加によってムチン層が分解され、腸管の透過性が上昇することによって腸管神経叢にα-シヌクレインが異常凝集し、中脳黒質まで異常凝集したα-シヌクレインが上行する可能性が示された。加えて、短鎖脂肪酸産生菌の減少によって中枢神経の炎症を制御しにくくなる可能性も示された。
研究グループは、「今回開発した腸内細菌叢の代謝パスウェイを解析するKOSEA法は、今後広く腸内細菌叢の代謝パスウェイを解析に役立つことが期待される。今回明らかにした腸内細菌叢の変化のパーキンソン病への関与を、今後さらにモデル動物などを用いてパーキンソン病の病態分子機構の解明につなげる」と、述べている。
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