双極性障害患者のさまざまな症状ごとに、どの薬が最善か?
慶應義塾大学は6月24日、日本臨床精神神経薬理学会のガイドライン整備事業に参画し、双極性障害の治療におけるさまざまな場面に最善と考えられる薬剤治療について、同学会が認定する専門医の意見を発表した。この研究は、同大医学部精神・神経科学教室の内田裕之専任講師、櫻井準共同研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、ワイリー社が発行する「Bipolar Disorders」オンライン版に掲載されている。
双極性障害は、日本において約1,000人に6人が一生の間にかかる病気とされ、気持ちの落ち込みや意欲の低下などがみられるうつ状態と、気分の高ぶりや興奮などに特徴づけられる躁状態をくりかえす。患者本人にとってうつ状態がつらいだけでなく、家族や身近にいる人たちにとっても激しい躁状態やふさぎこんだうつ状態の患者に接することは大きな負担にとなる。さらに、これらの症状によって社会的・経済的な損失を被ることも多くみられ、適切な治療が重要となる。
日本臨床精神神経薬理学会認定専門医の意見をまとめる
双極性障害では薬を使った治療が中心だ。気分の変動を抑える気分安定薬、脳内ドーパミンの機能を抑える抗精神病薬、脳内セロトニン・ノルアドレナリンの働きを増強させる抗うつ薬、不安感や不眠症状を軽減させるベンゾジアゼピン系薬剤などが、単独もしくは併用して使われる。これらの薬の使い方は、国内・国外の診療ガイドラインで臨床試験の結果に基づく提言がなされている。しかし、臨床試験と実際の診療場面では少なからず設定の乖離があること、また、実際の診療場面で問題になる状況を想定した臨床試験が必ずしもないことから、診療ガイドラインの提言をそのまま実際の診療に用いることが適切であるかについては議論があった。
今回、慶應義塾大学医学部の内田裕之専任講師、櫻井準共同研究員が所属する日本臨床精神神経薬理学会は、医学教育委員会(獨協医科大学の古郡規雄委員長、関西医科大学の加藤正樹副委員長)が中心となり、双極性障害の患者が経験するさまざまな状態をパターンに分け、それぞれにどの薬が最善であるか、同学会が認定する専門医の意見をまとめた。
状態が変動しても「リチウム」中心に内服することを推奨
意見をまとめた結果、気分安定薬の一つであるリチウムの単独治療や、リチウムと抗精神病薬を組み合わせた併用療法が、双極性障害のさまざまな状態で広く第一選択として推奨されることが判明。一方で、抗精神病薬の単独治療や抗うつ薬はいずれの状態でも第一選択とならず、また、ベンゾジアゼピン系薬剤は頓服での使用や極力短い期間の処方が推奨された。
双極性障害はうつ状態と躁状態という全く逆の状態が交互に現れるため、それぞれに対し薬剤治療をどのように変えるかについては、これまでにも議論があった。今回の結果は、状態が変動しても、リチウムを中心に内服することを推奨するものだった。うつ状態と躁状態の違いにこだわらないリチウムによる治療は、現在の症状に対する短期的な効果や再発予防に有用なだけではなく、状態に合わせて薬が変わることによる混乱の回避にもつながるという。
今後、科学的な研究による検証が必要
研究グループは今回の総意について、「今後、科学的な研究によって検証することが必要であると考察している」と述べている。また、専門医の見識が双極性障害の患者とその担当医師に共有されることで、この疾患の一つ一つの状態において最善と考えられる薬が明らかになり、双極性障害に対するより良い診療の普及に貢献するものと考える、としている。
▼関連リンク
・慶應義塾大学 プレスリリース