侵襲性が高く出血や感染症といった合併症の懸念がある右心カテーテル検査
北海道大学は6月23日、心不全の病態の一つであるうっ血(右心房圧の上昇)を、肝硬変の評価などに用いられている磁気共鳴肝臓エラストグラフィーにより、非侵襲的かつ高い精度で評価しうることを世界で初めて証明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院循環病態内科学教室の加藤喜哉客員研究員、永井利幸准教授、安斉俊久教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓病学会誌「JACC: Cardiovascular Imaging」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
全身うっ血は、心不全患者の予後を規定する重要な因子であることが先行研究で明らかになっている。うっ血を反映する右心房圧の正確な評価に必要な右心カテーテル検査は、侵襲性が高く、出血や感染症といった合併症の懸念がある。
右心房圧の非侵襲的推定法として超音波肝臓エラストグラフィーを用いた肝臓の硬度(肝硬度)評価が開発され、心不全患者における有用性が報告されていたが、約17%の測定エラーが生じる上、再現性も低いことから測定結果の信頼性が不十分だった。
MRIを用いた新しい非侵襲的肝線維化評価法「磁気共鳴肝臓エラストグラフィー」に着目
研究グループは、核磁気共鳴画像法(MRI)を用いた新しい非侵襲的肝線維化評価法である磁気共鳴肝臓エラストグラフィーに着目した。磁気共鳴エラストグラフィーで測定された肝硬度は、肝生検によって評価された肝線維化の重症度と極めて強く相関し、測定エラーは4.3%と高い再現性を備えていることからも、磁気共鳴肝臓エラストグラフィーを心不全患者に応用することで右心房圧のより正確な推定が可能であると考えられた。
今回の研究では北海道大学病院に精査加療のため入院した慢性心不全患者108人を対象として、右心カテーテル検査による右心房圧、肝臓磁気共鳴肝臓エラストグラフィーによる肝硬度、超音波肝臓エラストグラフィーによる肝硬度、心エコーによる下大静脈径の測定をほぼ同時期に実施した。
磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度から推定された右心房圧と、右心カテーテル検査で測定した右心房圧の間に、有意かつ強い正の相関関係
研究では、磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度から推定された右心房圧と右心カテーテル検査で測定した右心房圧の相関解析を実施。さらに、磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度、超音波エラストグラフィーで測定した肝硬度、心エコーで測定した下大静脈径に関し、右心房圧高値(いわゆる高度うっ血)の予測能を比較検討した。
右心カテーテルで測定した右心房圧の高い患者と比較して、右心房圧の低い患者は磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度値が低くなった。相関解析の結果、磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度から推定された右心房圧と右心カテーテル検査で測定した右心房圧の間に、有意かつ強い正の相関関係が認められた。また、右心房圧高値予測能の比較においても磁気共鳴エラストグラフィーで測定した肝硬度は、超音波エラストグラフィーで測定した肝硬度と心エコーで測定した下大静脈径よりも優れていたという。
心臓カテーテルを使用しない、新たな右心房圧推定法に期待
今回の研究は、心不全患者における磁気共鳴肝臓エラストグラフィーで非侵襲的に測定した肝硬度と、右心カテーテル検査で侵襲的に測定した右心房圧の関連を評価した世界初の報告だとしている。
通常診療において、心臓MRIは心不全の病因評価に用いられているが、撮像時に肝臓エラストグラフィーを追加することで、カテーテルを使用せずとも心不全診療に有益な多くの情報を一度の非侵襲的検査で得ることが可能となり、多くの心不全患者に恩恵をもたらすことが期待される、と研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース