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男性統合失調症患者のセロトニン関連遺伝子が高メチル化状態にあると判明-熊大ほか

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2020年06月23日 PM12:00

精神疾患の病態に深く関わるとして薬剤にも用いられているセロトニントランスポーター

熊本大学は6月18日、国内多施設共同研究により、統合失調症や双極性障害患者の血液では、セロトニントランスポーター遺伝子の特定のゲノム領域が高いメチル化状態を示すことを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院生命科学研究部分子脳科学講座の文東美紀准教授、岩本和也教授および東京大学医学部附属病院精神神経科の池亀天平助教、笠井清登教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Schizophrenia Bulletin」に掲載されている。


画像はリリースより

統合失調症や双極性障害は、人口の約1%が罹患し、長期間の治療が必要とされる重篤な精神疾患だ。過去の疫学研究から、発症には遺伝要因と環境要因の複雑な相互作用が関係していると考えられているが、確実な遺伝要因は同定されていない。

近年、「エピジェネティクス」という現象を通して、環境要因により遺伝子の働き(発現)が変化することが注目されている。エピジェネティクスは「遺伝子の塩基配列(設計図)の変化を伴わずに、子孫や娘細胞に伝達される遺伝子発現調節機構」と定義され、DNAメチル化などの化学修飾により遺伝子の発現が制御されている。

研究グループは過去に、双極性障害患者でのDNAメチル化解析で、セロトニントランスポーター遺伝子内の2つの特定の部位(CpG3およびCpG4)が高いメチル化状態を示すことを報告している。今回の研究では、過去に同定したこのCpG部位について大規模な追試実験を行い、また、新たに統合失調症患者での検討も行い、セロトニントランスポーター遺伝子のDNAメチル化が病態に与える影響について、包括的な検討を行った。

セロトニントランスポーターは、神経伝達物質をやり取りするシナプス間隙において、神経伝達物質セロトニンの濃度調節を行っているタンパク質。セロトニントランスポーターを標的とした薬剤は、抗うつ薬として広くうつ病や不安障害の治療に用いられており、精神疾患の病態に深く関わる分子の一つと考えられている。また、この遺伝子のプロモーター領域には5-HTTLPRと呼ばれる遺伝子多型があり、うつ病をはじめとした精神疾患との関連解析が多数行われてきた。多型のタイプがL(long)型である場合、遺伝子の働きが強くなり、多くのセロトニントランスポーターが産生され、S(short)型である場合は、少なく産生される。ヒトは大まかにこの2種類の組み合わせであるL/L、S/L、S/Sのいずれかの型を持つ。解析の結果、S型を持つと不安傾向が強く、よりうつ病に罹患しやすいとされ、大きな話題となった。しかし、近年の大規模な研究により精査され、5-HTTLPRの遺伝子多型と精神疾患の単純な関係は明確に否定されている。

男性統合失調症/双極性障害患者でセロトニントランスポーターが高メチル化状態にあることを確認

今回研究グループは、双極性障害患者450例、統合失調症患者440例、健常者460例について、血液(末梢血)から抽出したゲノムDNAを用いて、セロトニントランスポーター遺伝子のDNAメチル化状態を測定した。その結果、双極性障害患者および統合失調症患者のセロトニントランスポーターCpG3部位について、男性患者において高メチル化状態にあることを確認。この結果を受け、小型の霊長類であるマーモセットに抗精神病薬を長期投与し、そのセロトニントランスポーター遺伝子のDNAメチル化状態を測定したところ、メチル化変化が検出されなかったことから、双極性障害患者および統合失調症患者におけるメチル化変化が、投薬の影響を受けたものではないと推定された。

また、セロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター領域における遺伝子多型5-HTTLPRの詳細な解析を行ったところ、双極性障害患者および統合失調症患者において5-HTTLPRが低活性型である場合、高メチル化を示すことを確認した。なお、多型のタイプが日本人特有のL型であるL16-Cである場合、低活性型であることを確認したという。

次に、セロトニントランスポーター遺伝子のCpG3部位を人工的にメチル化し転写活性化能を測定したところ、メチル化したセロトニントランスポーター遺伝子では、転写活性化能が著しく抑制され、セロトニントランスポータータンパク質の生成が抑制されることを見出した。さらに、年齢・性別を適合させた健常者41例、統合失調症患者57例について、セロトニントランスポーターの働きが強く、過去にDNAメチル化状態との関連が報告されている扁桃体について、MRI脳画像を用いた解析を行った。その結果、低活性型5-HTTLPRを持つ男性患者の左扁桃体の体積と、CpG3のDNAメチル化率が逆相関を示すことを見出した。以上のことから、低活性型5-HTTLPRを持つ男性統合失調症患者では、セロトニントランスポーターが高メチル化状態にあり、セロトニントランスポーター量の低下を通して扁桃体体積の減少が生じている可能性が示唆されたという。

発症予測・診断・治療効果判定などのバイオマーカーとしての応用に期待

今回の研究成果により、セロトニントランスポーター遺伝子の特定の部位は、統合失調症や双極性障害の男性患者において高メチル化状態にあり、扁桃体の体積変化と関連していることが示された。研究グループは、「今後、発症予測や診断、治療効果判定などのバイオマーカーとしての応用が期待されるとともに、分子病態の解明の糸口になると考えられる」と、述べている。(QLifePro編集部)

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