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手術部位消毒薬オラネキシジンが術後感染リスクを半減、ヨウ素系消毒薬との比較で-慶應大

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2020年06月17日 AM11:45

医師主導型前向き無作為化比較試験で明らかに

慶應義塾大学は6月16日、手術部位の消毒薬「」が、現在国内で汎用されているヨウ素系消毒薬と比較して、手術部位感染のリスクを半減させることを医師主導型前向き無作為化比較試験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部外科学教室(一般・消化器)の尾原秀明准教授、竹内優志助教、北川雄光教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の国際医学雑誌「The Lancet Infectious Diseases」電子版に掲載されている。


画像はリリースより

手術部位感染は、消化器外科や整形外科、産婦人科などさまざまな領域の手術において最も一般的な手術後合併症のひとつであり、手術部位感染により周術期死亡を引き起こすことも稀ではない。術後入院期間を延長させるだけでなく、さまざまな抗菌薬投与やベッドサイドでの処置を必要とすることから医療費の増大にもつながり、米国では手術部位感染によって生じる医療費の損失は年間100億ドル、国内でも手術部位感染の治療に1人当たり30万円以上の医療資源が必要ともいわれている。日本における、胃がんや大腸がん、肝臓がんといった消化器外科領域の手術では、約10人に1人の割合で手術部位感染を認めると報告されている。

手術部位感染の予防は患者だけでなく、手術に携わる全ての医療従事者にとって重要な課題であり、これまで多くの予防策が試みられてきた。手術部位の外皮消毒は手術部位感染に対する最も基本的かつ重要な対策であり、これにはアルコール系消毒薬やヨウ素系消毒薬などが使用される。しかし、アルコール系消毒薬は電気メスの使用による引火の危険性が強く注意喚起されていることもあり、日本では半世紀以上もの間、ヨウ素系消毒薬が主に用いられてきた。しかし、近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といった従来の消毒薬に抵抗性を示す菌の手術部位感染が報告されるようになり、これらの菌にも効果を示す新たな手術部位消毒薬の開発が望まれている。

従来の消毒薬に抵抗性を示す細菌にも「強い殺菌力」「速効性」を有するオラネキシジン

国内開発品であるオラネキシジン消毒薬は、2015年に株式会社大塚製薬工場(Otsuka Pharmaceutical Factory, Inc.)から発売された。同消毒薬は、オラネキシジングルコン酸塩を有効成分とする新規ビグアナイド系殺菌消毒薬。薬効薬理試験や動物実験の結果、一般細菌だけではなく、MRSA、VRE、緑膿菌、さらにはセラチア菌、セパシア菌といった、従来の消毒薬に抵抗性を示す細菌に対しても強い殺菌力と速効性を有することが確認されている。しかし、従来の消毒薬との科学的な比較検討はなされておらず、また、製造元の大塚製薬工場による企業主導型臨床試験の予定もなかったことから、今回、研究グループは独自に医師主導型前向き無作為化比較試験を計画し実施した。

今回の研究は、慶慮義塾大学およびその関連施設の4施設合同で行われ、消化器外科領域(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆道、膵臓)における創分類Class-II(準清潔創)の全身麻酔手術が施行される20歳以上の患者を無作為に2群に分け、一方は術直前に手術部位消毒薬としてオラネキシジン消毒薬を用い、他方はヨウ素系消毒薬である10%ポビドンヨード消毒薬を用いて手術を行った。2018年6月~2019年4月までの間に597人の患者が同研究に登録された。そのうち587人が解析の対象となり、294人がオラネキシジン消毒薬投与群、293人がヨウ素系消毒薬投与群に割り付けられた。

主要評価項目は手術後30日間の手術部位感染の有無とし、副次的評価項目として手術後30日間の表層切開創手術部位感染、深層切開創手術部位感染、臓器/体腔手術部位感染の有無や創部培養陽性率およびその菌種、副作用率を評価した。

表層切開創における手術部位感染率も、オラネキシジン使用により有意な減少

試験の結果、主要評価項目である手術後30日間の手術部位感染発生数は、従来のヨウ素系消毒薬投与群で39例(13.3%)、オラネキシジン消毒薬投与群で19例(6.5%)となり、手術部位感染率が半減した。また、表層切開創における手術部位感染率についても、ヨウ素系消毒薬投与群が13例(4.4%)、オラネキシジン消毒薬投与群が4例(1.3%)となり、オラネキシジン使用により有意な減少を認めた。オラネキシジンは安全性でも新たな懸念はみられなかったとしている。

手術部位消毒は簡便に施行できる最も基本的な感染予防策であり、今回の研究成果は消化器外科領域のみならず、産婦人科や整形外科など幅広い領域の手術においても有用と考えられるという。研究グループは今回の研究結果を踏まえて、オラネキシジン消毒薬は国内のみでの販売だが、今後は世界各国での販売準備が進むものと期待される、と述べている。

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