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はっきりと見えるほど、脳で大きな「サッカード抑制」が生じることを発見-東北大

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2020年06月11日 PM12:15

「視野安定」メカニズム解明の鍵となるサッカード抑制

東北大学は6月5日、視野安定をもたらす脳の情報処理機構について新たな事実を発見したと発表した。これは、同大電気通信研究所の塩入諭教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

視線を動かすたびに、網膜に映る像は大きく変化する。しかし、ヒトはその変化を感じることなく、世界は止まって見える。なぜそのようなことができるのかは視覚処理の謎であり、視野安定の問題と言われている。視線を移動するためには脳から眼球運動の指令を出す必要があり、その指令信号を使えば網膜像がどのくらい変化するかわかるはずであり、それを考慮に入れて網膜像を処理すれば、実際の動きと視線の動きが区別できるとの仮説を立てることができる。しかし、実際の眼球運動はそれほど正確ではなく、眼球運動の指令信号と一致しない。そのずれをどのように処理するかが視野安定の謎に迫る鍵となる。視線が移動する前と後で、見ているものが動いたとき、その動きが小さい場合、それに気づかない現象(位置変化に対するサッカード抑制)の問題として研究が続けられている。

位置変化に対してサッカード抑制があることは、鏡を見ることで確認できる。鏡の中の自分の右目から左目に視線を移したとき、その眼の動きはわからないが、その様子を誰かに見てもらうと、はっきり目の動きがわかる。つまり、視線移動中の動きは知覚されないとわかる。視線移動が同期している必要があることは、スマホのカメラで撮った映像で同じことをやるとわかる。この場合は目の動きを見ることができる。これは、カメラで撮った映像が画面に映るまでに数十ミリ秒程度の遅れがあるため、急速なサッカード眼球運動の終了後に画面上の映像が動くからだ。つまり、0.1秒に満たない遅れがあるだけで、抑制効果は失われる。動きを見にくくすることで網膜像変化がわかりにくくなり、視野安定を実現できると考えることができる。

「見やすくなるほど位置変化の検出が困難」という新しい知見

今回研究グループは、眼球運動中に移動する刺激(白い円)の移動方向を弁別するという課題(位置変化検出課題)を被験者に課し、その課題の正答率を調べた。刺激はサッカードと呼ばれる急速眼球運動(視線移動)中に左右いずれかに移動し、被験者はどちらに動いたかを応答した。刺激の明るさ(背景に対するコントラスト)を変えることで刺激の強度を変え、刺激の移動方向の正答率を計測することで、刺激の強度(見やすさ)が、視野安定を実現する視覚処理に与える影響を調べた。コントラストに対する影響を調べることで、視覚機能の基礎にある神経系の特性を明らかにすることができるという。

同実験により、移動前の刺激コントラストを高くすると正答率の上昇が確認された。これは、見やすくなることで位置変化検出が容易になったということで、通常の感覚知覚処理の特性と言える。しかし、視線移動後(サッカード後)の刺激コントラストを高くすると、課題の正答率は低下した。つまり、見やすくなるほど位置変化の検出が難しくなったということだ。これは、これまで知られていなかった現象で、同現象が視野安定のメカニズムに深く関連することを、モデルを使って示したと言える。

ヒトが見る世界をより忠実に理解できるAIの実現につながる可能性も

今回の研究成果により、脳が眼球運動時には眼球運動後の視覚情報を用いて、積極的に位置変化の検出を抑制していることが示された。また、コントラストに対する感度の変化を調べることで視覚神経系の特性と関連付けることができるが、その関係を利用することで、この抑制効果が初期視覚処理の2つの経路のうち、一方の信号に依存するということをモデルで説明可能であることも示された。

研究グループは、「視野安定という現象を、脳の情報処理過程として解き明かすことは、将来、ヒトと同じ視野安定機能を持ち、ヒトが見る世界をより忠実に理解できるAIの実現にもつながるかもしれない」と、述べている。

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