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虚血性心疾患など27疾患の発症に関わる日本人の遺伝的特徴を確認-理研ほか

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2020年06月10日 PM12:30

日本人約21万人を対象に、42の多因子疾患についてGWASを実施

理化学研究所(理研)は6月9日、バイオバンク・ジャパンのゲノムデータを用いて、、JPHC研究、J-MICC研究と共同で、日本人約21万人のゲノム解析を行い、27疾患に関わる320の遺伝的変異を同定し、そのうち重要な遺伝的バリアントについて、国立がん研究センターバイオバンク、国立長寿医療研究センターバイオバンクならびにOACIS研究の協力で再現性を確認したと発表した。これは、同研究所生命医科学研究センター統計解析研究チーム(研究当時)の鎌谷洋一郎チームリーダー、石垣和慶特別研究員、久保充明副センター長(研究当時)、東京大学の門脇孝名誉教授、山内敏正教授、東京医科歯科大学の稲澤譲治教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Genetics」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

関節リウマチや2型糖尿病、非家族性がんなどの多因子疾患には、無数の遺伝的変異が関与している。大半の変異の影響は非常に弱いため、それらの変異を効率的に同定するためには、多くの患者検体を対象とした大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)が必要だ。

近年、欧米人を中心に大規模なGWASが多く実施され、疾患病因の解明が進んでいる。また、その解析結果は疾患発症予測や治療層別化などの目的で、臨床現場での実用性が示されつつある。一方、遺伝的変異の分布には民族差があるため、欧米での解析結果を日本人に応用できる範囲は限定的であることから、日本でのゲノム医療実装のためには日本人のGWASが必要不可欠であると考えられている。

(BBJ)は、2003年に開始した世界でも最も早くから構築されている大規模バイオバンクのひとつで、日本全国12の医療機関とその協力病院から、第1期に約20万人、第2期に約6.7万人のDNAと臨床情報を収集し、第1期については血清サンプルも収集している。今回研究グループは、日本人における疾患発症に関わる遺伝的変異を同定するため、BBJ第一期のゲノムワイドSNPデータを用いて、国内の多数の研究グループと協力し、42の多因子疾患を対象としたGWASを実施した。

27疾患320変異を同定、うち25変異は東アジア人で高く3つは欧米人にない変異

研究グループは、バイオバンク・ジャパンに含まれる42の各疾患サンプルをケース群とし、コントロール群にバイオバンク・ジャパンの非類縁疾患のサンプル、東北メディカル・メガバンク機構、いわて東北メディカル・メガバンク機構、日本多施設共同コーホート研究、JPHC研究から提供されたサンプルを含め、合計212,453人の日本人を対象にGWASを実施した。同研究は、非欧米人における疾患を対象としたGWASでは最大規模のプロジェクトだという。その結果、全体で27疾患の発症に関連する320の遺伝的変異(疾患感受性変異)を同定し、そのうち25変異は、欧米人を対象としたGWASでは検出されなかった新しい疾患感受性変異だった。この25の新規変異のアレル頻度は、欧米人よりも東アジア人で高いことがわかった。GWASの検出力はアレル頻度に依存するため、これらの新規変異は欧米人を対象としたGWASでは検出されにくいことから、東アジア人におけるゲノム研究の有用性を確認できたという。

結果的に全体で27疾患の発症に関連する320の遺伝的変異(疾患感受性変異)を同定し、そのうち25変異は、欧米人を対象としたGWASでは検出されなかった新しい疾患感受性変異だった。この25の新規変異のアレル頻度は、欧米人よりも東アジア人で高いことがわかった。GWASの検出力はアレル頻度に依存するため、これらの新規変異は欧米人を対象としたGWASでは検出されにくいことから、東アジア人におけるゲノム研究の有用性を確認できたという。

次に、同研究で同定された疾患感受性変異の生物学的な機能に注目。25の新規変異のうち、7変異がタンパク質のアミノ酸配列に影響を与える可能性が示唆された。この7変異のうち3つは欧米人には存在しない変異であり、欧米人を対象としたGWASでは検出することができない知見だった。この3変異が影響する遺伝子は、虚血性心疾患に関連するATG16L2、肺がんに関連するPOT1、ケロイドに関連するPHLDA3であり、各疾患の病因の解明につながる発見と考えられる。このうちATG16L2とPOT1に関しては、大阪急性冠症候群研究(OACIS)、(NCGG)バイオバンク、国立がん研究センター(NCC)バイオバンクのサンプルを用いて再現性を確認したという。

また、同研究で同定された疾患感受性変異が遺伝子の発現量に与える影響も評価した。一般に、遺伝子の発現量に影響を与える変異をeQTLと呼ぶが、これを解析したところ、脳動脈瘤の発症に関与する変異が、動脈組織においてATP2B1遺伝子の発現量を下げることが示唆された。マウスを用いた研究では、血管平滑筋におけるATP2B1遺伝子の発現量の低下は高血圧を引き起こすことが示されている。つまりこの変異は、動脈組織におけるATP2B1遺伝子の発現量を低下させ、血圧を上昇させることで脳動脈瘤の発症に関与すると考えられる。

ゲノム研究の対象が欧米人に偏っているという大きな問題点の改善にも貢献する可能性

最後に、疾患感受性変異の生物学的機能に関する知見をさらに広げるため、細胞の機能調整に重要な役割を担う転写因子に注目。2,868のクロマチン免疫沈降シーケンスのデータを独自に解析し、GWASで検出された変異がどの転写因子の結合部位に集積しているかを評価した結果、378の有意な集積が確認された(FDR<0.05)。この解析により、疾患発症に関与する転写因子の候補が多く示唆された。具体的には、関節リウマチ、バセドウ病、アトピー性皮膚炎などの免疫関連疾患とRELA(免疫反応の調整に重要なNF-κBの構成要素)、前立腺がんとAR(男性ホルモン受容体)、2型糖尿病とFOXA2(膵島からのインスリン分泌を制御する)など。これらの知見により、疾患感受性変異の生物学的機能を転写因子活性の観点から確認することができたという。

今回の研究結果は、疾患発症に関わる生物学的機序の遺伝子、転写因子レベルでの解明に貢献すると考えられる。また、ゲノム研究の対象が欧米人に偏っているという現在のゲノム研究の大きな問題点の改善への貢献も期待できる。研究グループは、「全てのGWASの解析結果を、バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC、Research ID: hum0014.v17)と理研が独自に構築した日本人集団ゲノム関連解析情報データベース「Jenger」より公開した。今回の解析結果をもとに多くの研究が展開され、さらなる研究成果につながることも期待できる」と、述べている。(QLifePro編集部)

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