退役軍人を対象に脳震とうの履歴と現在の症状を調査し、血液検査を実施
米国神経学会(American Academy of Neurology)は5月27日、3回以上の脳震とうを経験した人は、血中のニューロフィラメント軽鎖(neurofilament light chain; NfL)の濃度が有意に高く、それはPTSDや脳震とう後のうつ病などの症状と関連していることが明らかになったと発表した。これは、米ウォルター・リード陸軍医療センターのKimbra L. Kenney博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neurology」オンライン版に掲載されている。
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研究グループは、平均年齢38歳の195人の退役軍人(男性85%)を対象に調査した。対象者は、脳震とうの病歴なし(45人)、1回または2回経験(94人)、3回以上経験(56人)と3つの群に分けられた。また、対象者は、最後の脳震とうから少なくとも7年が経過した者とし、さらに、現在におけるPTSDやうつ病、脳震とう後症候群(postconcussive syndrome;PCS、気分の変化や記憶の問題、脳震とう後の頭痛などの症状)の有無が確認された。採取した血液においては、エクソソーム、NfL、TNF-α、IL-6、IL-10、血管内皮増殖因子(VEGF)を超高感度アッセイで測定。エクソソームは細胞間でタンパク質や情報伝達の役割を担う小胞だ。また、NfLは神経細胞に障害(または細胞死)が生じている時に血中濃度が上昇することが知られている。
脳震とう3回以上経験者は、血中NfL値が未経験者よりも3割以上高い
その結果、NfLの平均値は、3回以上脳震とうを起こしたグループで、一度も脳震とう経験がないグループよりも33%高くなっていることがわかった。エクソソーム濃度は、複数回の脳震とう経験者で34%高くなっていたという。また、NfLとエクソソームの濃度が高いことは、「繰り返す脳震とう」「慢性的なPCSやPTSD」「うつ病の症状」と関連し、TNF-α値は、PCSおよびPTSD症状と相関することが判明した。さらに、脳震とうを起こした総回数が多くなるほど、エクソソーム、NfL、IL-6が高値になっていた。加えて、直近の脳震とうからの年数経過に相関して、エクソソームとNfLは高く、IL-6は低下。一方、最初の脳震とうからの年数経過に伴い、エクソソーム、NfL、TNF-αおよびVEGFが高くなっていた。
軽度の脳震とうの場合、ほとんどの人は完全に回復するが、慢性障害のため完全に回復しない人もいる。「今回の研究から、複数回の脳震とう経験の影響を、脳震とうから数年経っても血中で確認できることが判明した。また、今回関連が明らかとなった血液成分は、PTSDやうつ病などがより重篤な症状に発展する人を予測するのに役立つと考えられる。今後、より大きな集団を対象に検討を行いたい」と、研究グループは述べている。