中国、米国、メキシコの8都市で新型コロナの背景因子の検討論文をメタ解析
国立成育医療研究センターは6月2日、世界3か国(中国、米国、メキシコ)の8つの地域で行われた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の発症や重症化に関連する背景因子を検討した論文をメタ解析し、その地域でのぜんそくの有病率と比べて、新型コロナウイルス感染者では気管支ぜんそくの基礎疾患保有率が有意に少ないことを見出したと発表した。この研究は、同センター免疫アレルギー・感染研究部の松本健治部長と斎藤博久所長補佐によるもの。研究成果は、「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に受理され、現在印刷中(in press)だ。
画像はリリースより
COVID-19は、世界中で少なくとも613万人が発症し、37万人以上の死者を出している。このパンデミックは、世界中の社会的および経済的活動だけでなく、医療従事者にも大きな打撃を与えている。新型コロナウイルスが上皮細胞に侵入する際に結合する分子はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)であり、他の多くのコロナウイルス(風邪症状を起こすことが知られている)とは異なる。
ライノウイルスやRSウイルスなど、多くの人が上気道炎(鼻かぜ)を起こすウイルスの感染は、気管支ぜんそくの発作を最も多く引き起こす原因となっている。気管支ぜんそく患者ではウイルスを退治するために必要なインターフェロンの産生が障害されていることが知られている。そのため、気管支ぜんそくはCOVID-19に罹りやすいのではないか、重症化しやすいのではないか、と心配されていた。そこで今回、松本部長と斎藤所長補佐は、中国、米国、メキシコにおけるCOVID-19患者の発症や重症化に関連する背景因子を検討した論文をメタ解析した。
気管支ぜんそく保有率低く重症化とも相関なし、ACE2発現変化が影響の可能性
その結果、中国、米国、メキシコの8都市から報告された合計1万7,485人のCOVID-19患者のうち、気管支ぜんそくの合併率は5.27%だった。一方、当該国の一般集団での気管支ぜんそくの有病率は7.95%であり、患者群の方が有意に低かった。これは、気管支ぜんそく患者がCOVID-19に罹りにくいことを示唆している。
また、中国と米国のCOVID-19患者合計2,199人(軽症者1,193人と重症者1,006人)の中で、慢性閉塞性肺疾患と糖尿病を基礎疾患に持つ患者の比率は有意に重症者に多かった。しかし、気管支ぜんそくを基礎疾患に持つ患者の比率には差がなかった。このことは、気管支ぜんそくの存在はCOVID-19の重症化とは相関していないことを示唆する。
試験管内での鼻粘膜上皮細胞や気道上皮細胞の新型コロナウイルスの受容体(ACE2)の発現は、IL-13で刺激する(ぜんそく患者の状態に近い)と減弱し、インターフェロン(IFN-α/γ)で刺激すると増強。また、ACE2の発現強度はアレルギーの強さの指標と逆相関していた。アレルギー疾患患者の気道上皮細胞でのACE2の発現は健常者に比して低く、気管支ぜんそく患者では、新型コロナウイルスと同じくACE2を受容体とするSARSウイルス(SARS-CoV)の感染も少なかったと報告されている。
ACE2発現低下のみを目的にデュピクセント治療を変更してはいけない
今回の結果について、松本部長と斎藤所長補佐は、「まず、ぜんそく患者のCOVID-19を過小評価してはならないことを強調したい」と、述べている。患者の現在の治療ステップを下げることを支持または推奨するエビデンスはなく、特に、最近承認された生物学的製剤であるデュピクセント(IL-4と13の両方を遮断する抗体)は、ACE2発現を低下させることのみを目的として減量や中止するべきではないとしている。
ぜんそくが新型コロナウイルス感染症の罹患率と死亡率に影響を与えるかどうかを最終的に判断するには、さらに慎重な調査が必須だ。NIH(米国国立衛生研究所)では、米国の子どもとその家族の新型コロナウイルス感染率を判定し、ぜんそくまたは他のアレルギー状態の子どもとそうではない子どもたちとの間で新型コロナウイルス感染率が異なるかどうかを調べる研究が既に開始されている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース