老化細胞は周囲の細胞に悪影響、老化細胞の除去治療に注目
大阪大学は5月22日、老化T細胞除去を目的とした治療ワクチンを作製し、糖尿病モデルマウスに投与した結果、老化T細胞を減らすことによる病態の改善効果が得られたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の中神啓徳寄附講座教授(健康発達医学)、吉田翔太医員(老年・総合内科学)、楽木宏実教授(老年・総合内科学)、森下竜一寄附講座教授(臨床遺伝子治療学)らの研究グループによるもの、研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
培養細胞を継続して観察を続けると、細胞が死滅しないまま増えなくなる「細胞老化」(Cellular Senescence)が起こることが知られている。細胞にさまざまなストレスがかかりDNA損傷が蓄積することによって、Senescenceが促進されることが明らかとなっている。近年、この老化細胞から炎症性サイトカインなどが多量に分泌されることで、周辺の細胞に悪影響を及ぼし、細胞老化を促進している現象が報告され、この現象は「老化関連分泌現象」(senescence-associated secretary phenotype:SASP)と命名されている。遺伝子改変マウスでこの老化細胞を生体から除去するモデルマウスを作成した結果、寿命の延長と加齢に伴うさまざまな症状が抑制できたことから、老化細胞を除去することによる抗老化治療の概念(senolysis)が提唱されている。現在、さまざまな手法を用いて世界中で老化細胞除去治療法が開発されている。
Th2活性を高めるアラム等を用いて細胞除去ワクチンを開発
研究グループは、生活習慣病・難治性疾患を標的とした抗体産生誘導を主眼とした治療ワクチンの研究開発を行ってきた。そして今回、治療ワクチンの新しい試みとして、細胞除去を目的としたワクチン開発した。ワクチンによる免疫応答は細胞性免疫と液性免疫の2種類に大別されるが、今回開発されたワクチンは、細胞性免疫を立ち上げることなく、液性免疫だけを活性化し抗体産生を誘導することが特徴だ。
抗体も、主として中和活性を有する抗体産生を目指すため、誘導するIgGサブクラスとしては、ADCC(抗体依存性細胞傷害)やCDC(補体依存性細胞傷害)などのエフェクター機能を有さないIgG2(マウスではIgG1)の産生が望ましく、Th2活性を高めるタイプのアジュバントであるアラム等を用いた。一方で、膜タンパクなどを抗原として治療ワクチンを設計し、逆にCDC活性を有するIgG1(マウスではIgG2)抗体を主として誘導することにより、標的細胞(今回は老化細胞)に傷害を与え、生体から除去することが可能であることがわかった。
糖尿病マウスから老化T細胞を除去すると病態改善
老化細胞はPD-1陽性/CD153陽性だ。開発したワクチンの有用性を確かめるため、モデルマウスを用いた実験を行った。通常食で飼育したマウスと比べ、高脂肪食で飼育したモデルマウスでは、内臓脂肪での老化T細胞が6.8%から16.0%に増加していた。老化T細胞の表面分子CD153を認識する抗体をワクチン投与によって産生させると、高脂肪食マウスの老化T細胞は7.6%まで増加が抑えられた。そこで、ワクチンを投与しながらマウスに高脂肪食を与えていき、細胞除去ができたワクチンとできなかったワクチンで耐糖能を比較してみたところ、糖負荷試験において老化細胞を除去したマウスの方が低血糖という結果が得られた。また、脂肪での炎症の起点となるマクロファージの浸潤も抑制されていたことがわかった。
今回の成果は、世界中で開発が進んでいる老化細胞除去治療のツールとして、ワクチンを用いた世界初の研究成果であり、これまで感染症予防やがん治療に主として用いられてきたワクチンの新しい適応の可能性を示したもの。開発した治療ワクチンの細胞殺傷能力はそれほど強くはないが、がん細胞や細菌・ウイルスに対して老化細胞の数はそれほど多くなく、しかも慢性的な進行であるため、研究グループのコンセプトである抗体を主とした産生誘導により、ゆっくりと持続的な効果を目指す治療標的としては最適であると考えられる。「老化T細胞は、糖尿病だけでなくさまざまな老化関連疾患への関与が考えられるため、臓器別の治療法でなく複数の疾患にまたがった治療法への応用も期待される」と、研究グループは述べている。
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