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患者由来iPS細胞の解析で、糖尿病の「動脈硬化」を抑制する仕組み発見-東北大ほか

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2020年05月18日 AM11:45

糖尿病で心血管疾患に「なりやすい人」と「なりにくい人」の違いについて研究

東北大学は5月15日、糖尿病患者由来のiPS細胞を用いて、糖尿病における合併症の一つである動脈硬化を抑制する仕組みを発見したと発表した。これは、同大大学院医工学研究科分子病態医工学分野・医学系研究科病態液性制御学分野の豊原敬文特任助教と阿部高明教授らのグループが、米国ハーバード大学と共同で行ったもの。研究成果は、米国科学会誌「Cell Stem Cell(電子版)」に掲載されている。


画像はリリースより

糖尿病患者の中には、心血管疾患になりやすい人となりにくい人がいることが知られているが、その仕組みは十分に解明されていなかった。なぜ心血管疾患になりにくい人がいるのか、その仕組みを解明することができれば、心血管疾患に対する新たな治療法の開発につながると期待されるが、そのために患者から血管などの組織を採取することは困難だ。そこで、体内のあらゆる細胞や組織に分化する能力を持つヒト多能性幹細胞()を利用することで、糖尿病患者の遺伝情報を保ったまま血管などの目的とする細胞を作製し、心血管疾患になりにくい仕組みの解明に役立てることが期待されている。

研究グループは今回、ハーバード大学のBeth Israel Deaconess Medical CenterであるChad Cowan博士のグループと共同で、慢性的な進行した糖尿病に罹患しているにも関わらず動脈硬化などの心血管疾患を持たない患者群と、糖尿病になってからの時間が短いにも関わらず動脈硬化を示した患者群からiPS細胞を作製し、さらに、血管細胞(内皮細胞と血管平滑筋細胞)に分化させ、遺伝子発現を比較した。

心血管疾患を示さない患者の血管平滑筋で、AADACの遺伝子発現が上昇

その結果、心血管疾患を示さない糖尿病患者の血管平滑筋において、小胞体内エステラーゼであるアリルアセタミドデアセチラーゼ()の遺伝子の発現が上昇していることを見出した。そこで、アリルアセタミドデアセチラーゼ遺伝子の発現を人為的に上昇させた血管平滑筋細胞をリピドミクス解析した結果、アリルアセタミドデアセチラーゼの活性化は、(1)中性脂肪などの細胞内貯蔵脂肪を細胞膜のリン脂質に変換することで貯蔵脂肪を減少させること、(2)血管平滑筋の増殖能・移動能を減少させることで動脈硬化の進行を抑える効果があることを明らかにした。

また、アリルアセタミドデアセチラーゼの発現を血管平滑筋で増強させると、動脈硬化モデルマウス(ApoEノックアウトマウス)で動脈硬化が軽減すること、反対に、アリルアセタミドデアセチラーゼの発現を低下させたマウスでは動脈硬化が悪化することを明らかにした。

今回の研究により、動脈硬化を抑える新たな仕組みが解明されたことで、血管平滑筋細胞における脂質代謝が動脈硬化に果たす役割の解明、および、血管平滑筋アリルアセタミドデアセチラーゼの活性化をターゲットとした心血管疾患の治療法の開発につながることが期待される。また、今回の発見により、疾患の仕組みを解明する手法として、疾患患者由来のiPS細胞を用いた研究が有用である可能性が示唆された。

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