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妊娠中の農薬摂取が、子の自閉症発症に影響している可能性、マウス実験で-千葉大

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2020年05月13日 AM11:45

グリホサート曝露があった妊婦の子でASD発症率高いと報告

千葉大学は5月12日、妊娠中の農薬「グリホサート」の摂取により、子の自閉症スペクトラム障害(ASD:autism spectrum disorder)などの神経発達障害の病因に関係している可能性がマウス実験で示されたと発表した。これは、同大社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授(神経科学)、大学院医学薬学府博士課程3年の蒲垚宇氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」の電子版に掲載されている。


画像はリリースより

ASDは、病因は不明なままであるが、多くの疫学研究から、環境要因(農薬等の環境化学物質など)が発症に寄与している可能性が指摘されている。2019年の論文では、米カリフォルニア州の農業地帯の人口ベースの症例対照研究において、農薬の一種であるグリホサートに暴露された妊婦から生まれた子どもは、ASDを発症した割合が、暴露されなかった妊婦から生まれた子どもと比較して高かったことが報告されている。

グリホサートは、1970年に米モンサント社(現在:バイエル社)が開発した除草剤で、アミノ酸グリシンの窒素原子にホスホノメチル基が置換した化合物だ。植物のシキミ酸経路に作用して、生育に必要な芳香族アミノ酸の合成を阻害し植物を枯らす。シキミ酸経路はヒトを含む哺乳類には存在しないが、ヒトの腸内細菌はシキミ酸経路を有することから、グリホサートはヒトの腸内細菌叢を乱す可能性がある。近年、ASD患者における腸内細菌叢の異常が数多く報告されている。2015年、国際がん研究機関は、グリホサートを発がんのリスクが高い区分「2A」にした。また同剤は、「除草剤耐性遺伝子組み換え作物」に幅広く使用されている。

農薬曝露の妊娠マウスの仔で腸内細菌叢は乱れ、sEH高発現

今回研究グループは、グリホサートを妊娠中の母マウスに飲料水として与えた動物モデル(母体免疫活性化モデル)を用いて、農薬による影響について検討。母マウスにグリホサートを含む水を離乳期(生後21日)まで与えると、その仔マウスがASD様の行動異常(社会性相互作用の障害など)を示した。母体暴露群と、通常の水を与えた妊娠マウスから生まれた仔マウス(以下、コントロール群)を比較した結果、母体暴露群の腸内細菌叢はコントロール群と比較して乱れていたことが確認された。

さらに、母体暴露群の仔マウスの前頭皮質では、多価不飽和脂肪酸の代謝に関わる「可溶性エポキシド加水分解酵素」( : soluble epoxide hydrolase)の発現が、コントロール群と比較して有意に高く、同部位における「エポキシ不飽和脂肪酸」の量は有意に低下していた。妊娠マウスにsEH阻害薬「TPPU」を妊娠期から離乳期まで投与すると、母体暴露群の仔マウスでASD様の行動異常が抑制された。

輸入作物の残留農薬から摂取の可能性も、追跡調査が必要

これらの結果から、妊娠中の農薬の摂取が、子のASDの発症に関係している可能性が示唆され、ASD様の行動異常の発生に重要な役割を果たしていることも明らかになった。実験で用いたグリホサートは高濃度(0.098%)であるため、本結果からヒトでの妊婦のグリホサートの摂取が、子にASDを引き起こすという結論は導き出せない。

しかし、グリホサートなどの農薬は、残留農薬として輸入小麦等に混入している可能性が指摘されており、食事として摂取している可能性がある。農薬の母体暴露と子どものASD発症との関連については、今後、妊婦を対象とした大規模な追跡研究を実施する必要がある。「妊婦の血液や尿中のグリホサート等の農薬の濃度測定と、生まれた子どもの追跡調査(ASD発症率など)を実施することで、ASDの病因に農薬の母体暴露が関係しているかが明らかになるだろう」と、研究グループは述べている。

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